100%の正義を押し通すと、“返り血”を浴びる

 ところが、これが大問題になりました。
 このときの私の態度が問題になり、「小西はゴルフクラブから除名する」という通告があったのです。実は、女性グループのレディキャプテンの夫が、そのゴルフクラブの理事長でした。だからこそ、彼女たちはあのような傲慢な振舞いができたのです。そして、今度は私に圧力をかけてきたわけです。

 仕方なく理事会に顔を出すと、「なぜ、彼女の言うとおりにしなかったのか?」と吊るし上げられました。私は、自分の行動は一つも問題がなかったとわかっているので反論し、何が起きたのかをまとめた文書も手渡しました。もちろん、一切の謝罪を拒絶。しかし、理路整然と正論を述べているのが、なおさら気に入らなかったのでしょう。私を除名にするという処分は覆りませんでした。

 私は憤然と理事会を去りました。すると、事務局長と副理事長が私のところにやって来て、「小西君の気持ちはわかる。君の言い分に一点も反論できないが、相手は理事長の奥さんだ。我々としては穏便に済ませたい」ととりなしました。

 周りにいた男性のクラブ会員たちは、「それはもう、裁判をやったほうがいいよ。クラブを除名されることは非常に不名誉だし、小西さんの権利を失うことになるんだから」と口々に言い始めました。そのような世論が高まれば、ますます理事会の立場が悪くなるので、その事務局長は「理事会に手紙を書いてほしい。手紙の内容は一行でいいから」と提案。自らタイプを打ち、私に示しました。

“I regret any inconvenience caused.(私は不都合を起こしたことを非常に遺憾に思います)”

 その一言だけ書けばいいと言います。これでは謝ったことになりませんので、「それならいい」と同意し、その一言を書いて文書を送りました。事務局長はそれを理事会に持って行き、うまくおさめてくれたのでしょう。除名を免れることになりました。

 裁判にして戦えば、おそらく私は勝って除名処分も取り消せたでしょう。しかし、同時に失うものも多かったはずです。そのゴルフクラブには友人が大勢いましたし、私は何よりゴルフが好きなので続けたかった。しかし、裁判まですればしこりが残り、二度と気持ちよくプレイすることができなかったはずです。離れていく友人もいたかもしれません。

 だから、「謝罪」まではしませんでしたが、「妥協」はしたわけです。この一件は、当時の私にとってはつらい経験でしたが、結果的には、周りの人々は「小西は日本の男だ。武士だ」と評価してくれました。リスペクトを寄せてくれたのです。

 だから、アンフェアな状況のなかで、コトを丸く収めるために謝罪をすることには慎重でなければなりません。その結果、穏便に収まることもあるかもしれませんが、その結果、軽侮される可能性が高いからです。それでは、周囲の人と対等の関係を構築することはできません。この一線は厳格に引いたほうがいいでしょう。

 ただし、「妥協」は必要。意固地になって100%の正義を押し通すと、“返り血”を浴びることになります。その結果、正義を守ることはできても、多くのものを失う結果を招いてしまう。どこかで「落としどころ」を見出すのも、人生の知恵というべきでしょう。