第1に、明確な方向性が組織全体に伝わることで、末端社員もそのポジション固有の無力感を抱くことなく行動を起こせるようになる。その行動がビジョンに沿ったものである限り、上司も叱責することはできないだろう。第2に、全員が同じ目標に向かっているため、だれかの取り組みがほかのだれかのそれと対立し、失速してしまうおそれも少ない。

「動機づけ」vs.「統制と問題解決」

 変革がリーダーシップの役割である以上、変革に不可避な障害に対処するうえで、人々から活気あふれる行動を引き出す能力が重要といえる。方向性を設定すれば、進むべき道筋が明らかになり、人々を1つにまとめれば、そこに向かわせることができる。同じく、うまく動機づければ、組織メンバーは障害を克服する力を得る。

 経営理論によれば、システムの動きと計画を比較し、両者の間に乖離がある場合、統制のメカニズムを働かせれば、何らかの行動が起こるという。

 たとえば、管理の行き届いた工場では、計画立案のプロセスでは、適切な品質目標を定め、組織化のプロセスでは、これらの目標を実現できる組織に整え、統制のプロセスでは、品質にまつわる問題を、1ヵ月や2ヵ月もかかることなく、すぐさま察知し是正する。

 統制がまさしくマネジメントの中核であるという理由からすれば、強く動機づけられた行動や触発された行動は、マネジメントとはほぼ無関係なものである。マネジメント・プロセスは、可能な限り、安全に安全を重ね、リスクをゼロにする必要がある。つまり、非常の手段、あるいは確保するのが難しいものに頼ることはできない。

 各種システムや組織構造の全体的な目的は、普通の人々が、普通のやり方で、ルーチンをきちんと処理できるようにすることである。わくわくするようなものでも、華やかなものでもない。しかし、それがマネジメントなのだ。

 しかし、リーダーシップは違う。壮大なビジョンを実現するには、エネルギーを爆発させる必要がある。動機づけ、触発することで、人々はエネルギーを得る。ただし、統制のメカニズムのように、正しい方向に無理やり向かわせるのではなく、達成感、帰属意識、正当な評価、自尊心、自分の人生は自分の手に握られているという実感、理想に向かって生きる力など、人間の基本的欲求を満たすことによって、である。このような感情が芽生えることで、人は深く感動したり、力強く行動したりできる。