人々を1つにまとめることは、これとは異なる。いかに設計するかより、いかにコミュニケーションするかという側面が大きい(コラム「一体化:イーストマン・コダックのチャック・トローブリッジとボブ・クランダル」を参照)

 人々をまとめるには、組織化する場合よりも、たくさんの人たちと会話する必要がある。しかもその相手は、部下だけでなく、上司や同僚、他部門のスタッフ、サプライヤー、役人、そして顧客にまで及ぶ。ビジョンや戦略の実行に力を貸してくれる人、あるいはその妨げとなる人も、すべてその対象となる。

 選択すべき将来に関するビジョンを皆に理解させることはコミュニケーションの問題であり、その重要性は、短期計画を達成するために人々を組織化することとはまったく異なる。つまり、アメリカン・フットボールのクオーターバックが次のプレーをチームに指示するのと、シーズン後半の試合で使う新しい戦術を説明するのと同じくらい違う。

 数多の言葉を駆使しようと、吟味に吟味を重ねて選んだスローガンであろうと、このようなメッセージは、理解されたからといって受け入れられるとは限らない。そこで、リーダーシップにおける大きな課題の1つは、信用を獲得すること、すなわち皆にメッセージを信じてもらうことである。ただし、信用を得るには、メッセージを発する人の実績、またメッセージの内容そのもの、誠実さや信頼性に関する評判、言行の一貫性など、さまざまなことが関係してくる。

 最後に、人々を1つにまとめると、組織化ではほとんど行われないかたちによってエンパワーメント(権限委譲)が進む。

 組織が市場や技術の急速な変化になかなか適応できない理由の1つは、そのような企業では社員の大半が「自分は無力である」と感じていることである。彼ら彼女らは、外界の大きな変化を正しく察知し、適切な行動を起こしても、上層部のだれかが反対すれば、自分にはなすすべがないことを経験的にわかっている。「方針に反する」「そんな余裕はない」「黙って言われたとおりにしなさい」など、さまざまな叱責の言葉が浴びせられるおそれがある。

 しかし、皆を1つにまとめることにより、少なくとも次の2つの面でエンパワーメントされるため、このような問題も克服できる。