◆権威より創発
◇創発とは何か

 かつて、知識が生産され拡散されるプロセスは、きわめて線形的だった。しかし現在、そのようなシステムは退場しつつあり、新しいシステムである「創発」が台頭しつつある。

 創発とは、大量の小さいものが単純な選択をおこなうだけで、部分の総計をはるかに上回る能力や知性を発揮する現象のことである。たとえば経済は、人間が作り出した創発系の典型だ。なぜならそこにはどんな個人も左右できない特性があるからである。

◇合成生物学という創発

 2013年、ヨーロッパ9カ国の研究者グループが、ある緊急協調行動を実施した。そこで宣言されたのは「現代の病気を倒すには、現代の兵器が必要だ」ということだった。

 プロジェクトの拠点となるパリの研究所にちなみ、チーム・ベタンクールと名乗る彼らは、バクテリオファージをプログラムしなおした。抗生物質に耐性をもっている結核菌のDNAを破壊させ、通常の抗生物質で死ぬように仕向けたのだ。また、結核をその場で診断できる、特別な生体内組織を作る方法も実証している。

 こうした分野はいわゆる合成生物学と呼ばれ、これまでの科学分野とは異なった性質をもっている。これまでは、小さな研究室のなかでブレークスルーが起きるのを待つのが通例だった。しかし合成生物学の世界では、学生や教授だけでなく、バイオハッカーと呼ばれる無数の市民科学者集団が集まり、共同作業をおこなうのが通例となっている。創発が実験室に入り込んできたのだ。

◇創成が当たり前の世界へ

 イノベーションの促進が進んだのは、科学分野だけではない。

 新しいツールが広く提供されたことで、イノベーションのための費用は激減した。3Dプリンタが登場した今、プロトタイプを作成するのはじつに簡単である。かつては大企業や学術研究機関でしか手に入らなかった情報も、いまやオンライン講義や市民コミュニティで見つけられるようになった。

 また、キックスターターなどのクラウドファンディングサービスが、資金調達のためのプラットフォームを構築したことも大きい。資金があれば、起業家はクラウドソーシングを通して、フリーランスやボランティアの世界的なコミュニティを活用できる。

 さらに、無料もしくは低コストで、オンラインやコミュニティの教育を受けられるようになった。新技能を学ぶ新しい機会が増えれば、人々はますますイノベーティブになるだろう。