一時は経営不安説までささやかれた流通大手イオンの業績が回復している。背景には、社外取締役の増員などコーポレートガバナンスの改革による拡大路線からの決別があった。
国内流通を代表する大手のイオンだが、2年前の2009年秋には市場で「経営不安説」がささやかれた。
08年度に7期ぶりの最終赤字に転落、営業利益も2期連続で減益に終わった(図①)。
それまで積極的なM&A(企業合併・買収)と出店拡大路線で成長してきたが、本業の総合スーパー事業のビジネスモデルが陳腐化していたところに、リーマンショックのあおりを受けた。それまでの拡大路線により、総資産3兆7414億円、有利子負債1兆1946億円(08年度)とひたすら肥大化するバランスシートの一方、転がり落ちるような減益の底が見えなかったため、経営不安説に火がついた格好だった。
そこで、09年12月に三菱商事と包括業務提携を締結、三菱商事がイオン株式の5%を保有することで信用補完につなげた。
そしてこれを機に、イオンはそれまでの拡大路線から圧縮経営に舵を切り始めた。
まず効果を表したのは大胆なコストカット。09年度は、なんと1年間で771億円もの経費を削減。その傾向は翌年度も続き、2年間で削減した販売管理費は1307億円にも上る。
圧縮経営の2番目は設備投資の抑制である。11年度も増益基調が続いているが、これは「圧縮経営がタイムラグをもって効いてきている」(正田雅史・野村證券金融経済研究所主席研究員)ためだ。経費カットは、損益計算書に即、効いてくるが、「設備投資は長期資産のため、効果が出るのに1年かかる」(同)。
08年度までは、営業キャッシュフローを上回る投資を行い、常にフリーキャッシュフローは赤字状態(図②)だったイオンだが、09年度以降は投資を営業キャッシュフローの範囲内に収め、フリーキャッシュフローが黒字に転換するようになった。
図③に見られるように、09年度以降は、出店を過去の3分の1以下に抑え、逆に不採算店の閉鎖は加速して直営売り場面積は縮小している。流通大手の自らが、面積を減らすことで、供給過剰状態を調整したといえる。だが、1平方メートル当たりの売上高は依然として下がり続けており、効率を重視するなら、さらなる店舗のスクラップが必要といえよう。
3番目が在庫の圧縮である。たとえば、10年度第2~4四半期は衣料品の在庫を、前年同期に比べて2ケタパーセント絞った(図④)。
在庫を絞れば、季節の境目での値引きセールによる処分が少なくなり、粗利益率の改善につながる。衣料品の粗利益率は、09年度の35.9%から10年度は37.5%と1.6ポイント改善した。衣料品の既存店売上高は1%落ちたが、利益率が改善したため、これだけで粗利益高は36億円増えた。
拡大志向のDNAを持つイオンが圧縮経営に転換できたのには、コーポレートガバナンスの改革が挙げられる。