イラクやシリアで「イスラーム国」と交戦した諸勢力の働き以上に同派の退潮に効果的だったのは、世界各国で「イスラーム国」向けの資源の調達と移動に対する規制が強まったことである。2015年末時点の推計で、100ヵ国近くから約3万人もの人員がイラク・シリアで「イスラーム国」に合流したと考えられている。

「イスラーム国」は世界中のムスリムに「移住」を勧める広報を行っていたが、だからと言って敵対勢力の工作員が侵入したり、必要な能力や資質を持たず組織にとって負担にしかならない人員が増加したりすることは望んでいない。そうなると、身元確認・選抜、ある程度の訓練、そして密航のための旅程支援を行う組織やネットワークが、「イスラーム国」に多数の人員を送り出した諸国に相当強固に存在していたと考えることができる。

「イスラーム国」への代表的な人員の供給国は、チュニジア、サウジ、トルコ、ロシア、ヨルダン、そしてフランス、イギリス、ベルギーなどのEU諸国である。アジアにおいては、インドネシア、バングラデシュ、オーストラリアからの人員供給が目立った。

 外部からの資源供給という観点から見ると、2015年以降、チュニジア、フランス、サウジ、ベルギー、トルコなどで「イスラーム国」の犯行と考えられる爆破事件や襲撃事件が起きたことは、同派にとって資源の調達と移動の道を狭める自殺行為に他ならなかった。別の観点から見ると、これまで「イスラーム国」の資源調達地となってきた諸国が自国内でそれを取り締まろうとすれば、取り締まりの現場で抵抗される場合も含め、「イスラーム国」と衝突する可能性は上がる。

 EU諸国での様々な事件は、その手法や被害の規模の面で衝撃的なものと受け止められたが、裏を返せば長期間にわたり「イスラーム国」による資源の調達を放置してきた諸国の失態だったのである。これまで資源の調達・移動に利用してきた場所での取り締まりが強化されたことにより、「イスラーム国」はイラクやシリアに資源を送り込むことが困難になっていった。

「イスラーム国」の実態は
どうなっているのか?

 これまで述べてきたように、「イスラーム国」は犯罪組織として資源を調達し、組織を運営するメカニズムを世界規模で発達させてきた。その実態はどうなっているのか。同派は、人員の勧誘・選抜・教化・旅程支援・合流・教練のメカニズムの構築、人員勧誘の誘因となる給与や「福利厚生」の提供に見られるように、犯罪組織として資源を調達したり、構成員が利益を分配したりする仕組みは持っていた。また、訓練施設を設け、部隊を編成し、広範囲で戦闘を行う管理・兵站部門を組織した。