釣りバカ日誌のハマちゃんが
日本企業を救う

 では、立場主義をなくせばいいのか。私はそうは思いません。立場主義は鎌倉時代に形成されはじめた「家制度」が、明治以降に変形したもの。この家制度を守ってきたからこそ、江戸時代には約260年もの間、平和が続いたし、立場主義があったからこそ、戦後の混乱からも立ち直って経済成長をすることができたという良い面もあるのです。

 第一、もはや日本人のDNAに組み込まれていると言っても過言ではないくらいに浸透している立場主義を撤廃することなんて、できるはずがありません。

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 立場主義をよりよい形にする可能性があるとしたら、それは「無縁」の再導入です。「無縁」とは網野善彦という偉大な歴史学者の発見した概念で、それは「縁」が「腐れ縁」に堕落したら、その縁を切っても良い、という倫理観のことです。そして、その無縁の原理を体現した人を、「無縁者」と呼びます。

 たとえば、映画『釣りバカ日誌』の主人公、西田敏行扮するハマちゃんは、無縁者のイメージにぴったりです。会社では役立たずで釣りばかりしていますが、実は社長とも釣り友達で、釣りを介して社外にもすごい人脈を持っている。そして、いざというときに、大活躍します。

 バブル期までの日本企業には、無縁者の活躍が至るところで見られました。たとえば、NHKの『プロジェクトX』でよく知られているように、日本ビクター(当時)のVHSは、窓際技術者たちによる、隠れプロジェクトが開発したものでした。昔は、こんな得体の知れないプロジェクトにも、ちゃんと予算と人が付くくらいの余裕が、日本企業にはあったのです。

  前回(記事はこちら)述べましたが、立場にがっちりついて役を果たし、派閥抗争に明け暮れるサル山根性オヤジだけでは、企業は成長しません。創造性あふれる仕事は、出世や派閥抗争とは無縁の人たちの得意とするジャンルなのです。

 昭和の日本企業は、無縁者が組織に居着ける余地を持っていました。だからこそ、日本企業はダイナミズムを発揮して世界に重きをなしたのです。残念ながら、今では無縁者は排除の対象でしかありません。

 高齢化が進む一方でAIが進化し、アジア諸国も発展していく。こんな環境下で、無縁者を排除した立場主義一辺倒を貫いていたのでは、日本は発展しようがありません。それはがむしゃらに働けばなんとかなった時代の価値観です。

 今、不登校の子どもが増えていますが、私には、聡明な子どもたちが「学校で立場主義なんか叩き込まれても意味がない」と悟り、立場主義システムへの非暴力的抵抗運動を展開しているように思えてなりません。

 立場主義の硬直性を緩和し、創造性あふれる仕事をできるのは、無縁者です。日本社会は今一度、無縁の原理を再導入すべきなのです。それが日本の未来を切り開く道です。