幸福の製造装置

 このまとめとして、幸福をインプットとアウトプットから考えてみましょう。モデルはきわめて単純で、私たちはみな「幸福の製造装置」を持っていて、そこになんらかの刺激をインプットすると、あるメカニズムによって幸福に変換されアウトプットされるのです。

 このとき、幸福の大きさを決める要因は2つしかありません。インプットの量(あるいは質)と「製造装置」の変換効率です。

「幸福」をインプットとアウトプットで考える「幸福の製造装置」

 インプットされるのは金融資産、人的資本、社会資本ですが、その量は多ければ多いほどいいというわけではなく、人的資本と社会資本では量よりも質が重要になります。

『幸福の「資本」論』
橘玲著
ダイヤモンド社 定価1500円(税別)

 さらに同じインプットでも大きな幸福を感じるひとと、なにも感じないひとがいるように「幸福の製造装置」の変換効率は一人ひとりちがっており、その仕組みはいまだブラックボックスです。―― 一時的にとてつもない名声を手にするなど、社会資本のインプットが過剰だと逆に幸福を阻害することもあるでしょう。

 しかしそれでも、ひとつだけ確かなことがあります。インプットがゼロであれば、幸福というアウトプットもゼロになるほかない、ということです。「退職者」が金融資産を騙し取られたり、人的資本しかない「ソロ充」が失業したり、社会資本だけの「プア充」が友だちを失ったり……。これはどれも、「人生の転落物語」のよくあるパターンですが、彼らが不幸なのは、幸福の製造装置にインプットするものがなくなってしまうからなのです。

 このことから、資本をひとつしか持っていないと、ちょっとしたきっかけで貧困や孤独に陥るリスクが高くなることがわかります。それに対して2つの資本を持つことができれば、人生の安定度ははるかに増すでしょう。ただし3つの資本=資産を同時に持つ「超充」になることはおそらく不可能です。――その理由はお金と共同体の道徳が対立するからですが、これは今後の連載で述べます。

 人生を「金融資産」「人的資本」「社会資本」という3つの資本=資産で把握すると、幸福というとらえがたいものにある程度かたちを与え、現実的な戦略を考えることができるようになります。これが、近著『幸福の「資本」論』を執筆した基本的なアイデアでした。

(作家 橘玲)