クラウドコンピューティングという響きからは、セールスフォースやグーグル、アマゾンといったネット革命以降に急成長した企業が連想されがちだが、もとよりそれは偏った見方だ。PC時代に圧倒的優位を築いたマイクロソフトもここ数年、クラウド戦略の実行を着実に進めてきた。2010年1月には約1年に及ぶ評価期間を経て日本を含む世界21カ国でクラウド・プラットフォームの「ウィンドウズ・アジュール」を正式に投入、今年6月には業務アプリケーションをネットワーク経由で利用できる「オフィス365」の提供を開始した。オンプレミス(ユーザー企業内システム)とクラウドとの連携に向けて営業・サポート体制も、大幅に刷新中だ。日本マイクロソフトの樋口社長は、自社のクラウド戦略に自信を深めている。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 麻生祐司)

――ここ数年、クラウドサービスを拡充させているが、手ごたえはどうか。

樋口泰行(ひぐち やすゆき)
1957年兵庫県生まれ。1980年大阪大学工学部卒業後、松下電器産業入社。ハーバード大学経営大学院でMBA取得。ボストンコンサルティンググループ、アップルコンピュータ等を経て、日本HP社長、ダイエー社長を歴任。現在、日本マイクロソフト株式会社の代表執行役社長。著書に『変人力』『「愚直」論』(ダイヤモンド社)がある。

 デリバラブル(提供可能)な状態になったというか、アウトプットとしてかなり形が見えてきたと思う。

 「ウィンドウズ・アジュール」のようなPaaS(パース。Platform as a Serviceの略)に加えて、オフィス、エクスチェンジ、シェアポイント、ダイナミクス(CRM)といったオンプレミスで実現してきた製品群のオンラインオファリング、すなわちSaaS(サース。Software as a Service)のメニューも着実に拡充させてきた。

 外からは単発に見えていたかもしれないが、われわれからすれば、計画通りの展開だ。製品の幅、そしてクラウドの種類の選択肢(パブリッククラウド、プライベートクラウド、パートナークラウド)の面でも、だいぶ盤石なクラウド戦略になってきたと思う。

 必然的に、1年前に比べると、ライバルを意識する度合いも減った。顧客企業の目にも、マイクロソフトはオンプレミスのみを得意とするレガシーな企業という映り方はもうしなくなったはずだ。

――具体的な成果はどうか。

 一番分かりやすい成果は、当社の製品を扱うパートナー数の増大だろう。2010年度の初め(7月)に、国内クラウドパートナーを1000社規模に引き上げるとの目標を公言したが、年度が終了した2011年6月末時点で1025社に到達した。最初はオンプレミス製品で付き合いのなかった新しいパートナーが主だったが、時が経つにつれて旧知のパートナーも当社のクラウド製品を取り扱うようになってくれた。2011年度も引き続きパートナー開拓に力を入れる。目標は、2000社だ。