「安曇野・翁」の修行で身につけた二八蕎麦と
創作料理が多くの蕎麦好きたちを騒然とさせた
その「翁達磨」の精神と技を受け継ぎ、何人かの職人が全国に散らばっていったが、その中でも名の高いのが「安曇野・翁」である。安曇野はわさび田湧水群のある清流の郷である。一方で雄大な北アルプスの山々がそびえ、旅する者はその景観に心が洗われる。
ある日、蕎麦とは何かを求めてこの地に足を踏み入れ、「安曇野・翁」の門をくぐった男がいた。
「その蕎麦を食べたとき、雷に打たれたような衝撃を受けました。感動の余り、その場で弟子志願をしたほどです。北アルプスからの雪解け水が合流する万水川、その川を渡る涼風、すべてが“感動”を呼ぶ条件になっていたんです。」
こう語るのは芝「案山子」の亭主、山田健人さんだ。2008年4月、芝に蕎麦屋を開店。その7月には著名雑誌に取り上げられてすぐに注目を浴びることとなる。これ以上はないという幸運なスタートを切った。
「案山子」で出される、「翁」系列の二八蕎麦と創作料理は、蕎麦ブロガーたちをも騒然とさせた。今は定番になっている蕪の茎味噌チーズはネットで美味しさが評判になり、固定メニューになったものだ。
「蕎麦屋の発信の仕方は色々あっていいと思います。」
その言葉通り、山田さんは蕎麦屋に新しいアイデアを持ち込んだ。そして、その試みがフックとなって、蕎麦屋にこれまで入ってこなかった客が「案山子」に集まってきている。