「安曇野・翁」の修行で身につけた二八蕎麦と
創作料理が多くの蕎麦好きたちを騒然とさせた

 その「翁達磨」の精神と技を受け継ぎ、何人かの職人が全国に散らばっていったが、その中でも名の高いのが「安曇野・翁」である。安曇野はわさび田湧水群のある清流の郷である。一方で雄大な北アルプスの山々がそびえ、旅する者はその景観に心が洗われる。

芝「案山子」――本格の和懐石と二八蕎麦に命を与える“ひとしずくの水”へのこだわりが客に感動を呼ぶ「翁」卒業の後、4年半も料理の修業をした。最近は、厨房を料理人に任せてカウンターで客の相手をする。配膳やら日本酒のセレクトやら、肴も客の好みを見てくれる。

 ある日、蕎麦とは何かを求めてこの地に足を踏み入れ、「安曇野・翁」の門をくぐった男がいた。

「その蕎麦を食べたとき、雷に打たれたような衝撃を受けました。感動の余り、その場で弟子志願をしたほどです。北アルプスからの雪解け水が合流する万水川、その川を渡る涼風、すべてが“感動”を呼ぶ条件になっていたんです。」

 こう語るのは芝「案山子」の亭主、山田健人さんだ。2008年4月、芝に蕎麦屋を開店。その7月には著名雑誌に取り上げられてすぐに注目を浴びることとなる。これ以上はないという幸運なスタートを切った。

「案山子」で出される、「翁」系列の二八蕎麦と創作料理は、蕎麦ブロガーたちをも騒然とさせた。今は定番になっている蕪の茎味噌チーズはネットで美味しさが評判になり、固定メニューになったものだ。

芝「案山子」――本格の和懐石と二八蕎麦に命を与える“ひとしずくの水”へのこだわりが客に感動を呼ぶ開店当時は週変わりの創作料理が評判に。蕪の茎味噌チーズは客の人気で定番になった。

「蕎麦屋の発信の仕方は色々あっていいと思います。」

 その言葉通り、山田さんは蕎麦屋に新しいアイデアを持ち込んだ。そして、その試みがフックとなって、蕎麦屋にこれまで入ってこなかった客が「案山子」に集まってきている。