携帯事業者の〝クライマックスシリーズ″が開幕そうそう、波乱含みの展開になっている――。
総務省は9月6日、700メガヘルツと900メガヘルツという効率のよい電波の周波数帯(プラチナバンド)の割り当てをめぐり、携帯事業者4社がそろって参入希望を出したと発表した。
プラチナバンドの電波は、山間部や建物を迂回しやすいため途切れにくい。ドコモとKDDIはすでに持っているものの、スマートフォンの利用者が急増したことで通信回線がパンパンになっているため、獲得の必要に迫られている。
ましてやそれを持たないソフトバンクはなおさらだ。早くから「公平な競争を」と訴え続け、獲得の「本命」と目されていた。
しかし、ここで「大穴」として浮上してきたのが業界4位のイー・アクセスである。獲得の秘策、それが「軒貸し」による市場の活性化だ。
じつはイー・アクセスは、すでに約40社にデータ通信網を貸し出している。データ端末も卸しており、通信網のないインターネットプロバイダーなどもこれらを借りて、自社ブランドのデータ通信サービスを展開している。いわゆる仮想移動体通信事業者(MVNO)を支えているのだ。
もちろん、基盤となる高速データ通信網も備えている。もともと2005年という後発参入のため、データ通信に特化して、そのネットワークを開放することで成長を遂げてきたのだ。従ってプラチナバンドを獲得した暁には、その果実を他のMVNOにもわけ与えていく方針だ。
さらに、この戦略では競合するソフトバンクをも巻き込める。すでにソフトバンクにデータ通信網を貸していることが大きいが、さらに「軒を貸す」ことでプラチナバンドを2社そろって分け合うこともできるというわけだ。
むろん、ソフトバンクモバイル幹部は「(契約数は約8倍で)期待される大きさが違う。(プラチナバンドを)とれることを基本に事業戦略を考えており、それがとれなければ大騒ぎするかもしれない」と一笑にふす。
しかし、電波は国民にとっての財産である。総務省の役割は本来、市場の競争を促して電波の有効利用を果たすことにあるだけに、イー・アクセスの存在を無視はできまい。
900メガヘルツ帯が12年夏から利用できるようになるため、まずは今秋に割り当て基準が定まり、今年度中にも事業者が決定する見込みだ。今後、争奪戦は加熱しそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)