「有事」と「平時」では違う
米の「5015」作戦と連携

──仮に有事となればどうなのでしょうか。

 有事となれば、米国は「5015」作戦で、25分ほどの間に北朝鮮の核施設やミサイル基地など約700ヵ所を一斉に攻撃するといっています。グアムに配備されているB1爆撃機や、空母などに搭載されている巡航ミサイル「トマホーク」などで先制攻撃をするわけです。

 それでも北朝鮮側は生き残って、「ソウルを火の海にする」と言っているように、本格的な戦争になる。しかしそうなると、北朝鮮はまず米国や韓国との目の前の戦いに専念するでしょう。在日米軍基地などへの攻撃はその後になります。

 日本への攻撃があるとなれば、そのタイミングではみんな構えるわけです。日本のイージス艦4隻も日本海で並んで防衛網を張るし、米第7艦隊のイージス艦5隻や、場合によってはハワイなどからも駆けつけるから、かなりの数のイージス艦が北のミサイルを待ち構える。北の発射施設は米軍の先制攻撃で、かなり破壊されていると考えられるので、数的にも対応できるはずです。

 つまりそうなった時は、今の平時の「ミサイルの落下防止」の体制から、有事の体制に一気に切り替わる。米国の「5015」作戦に応じた作戦は、表には出ていませんが、日本も韓国も持っています。パトリオットも、日本全土を守るのは無理ですから、防護対象を原発や首都圏の重要施設に絞って配備するということになるでしょう。

 ミサイル防衛は十分な守りにならないから、「敵基地攻撃能力」を保有すべきという声も出ていますが、私は、米国の「5015」作戦と連携した作戦で対応できると考えています。敵基地攻撃能力の議論は、飛んできたミサイルを排除しても排除してもきりがないから、その発射基地を叩くという流れで考えるべきものです。それは基本的に米軍の任務ですが、日本もその文脈からある程度の能力を持つべき、という考え方なのだと思います。

「戦争」に慎重な米制服組
核保有で米朝が先に手を握る可能性も

──チキンゲームが軍事衝突につながることは本当にないのでしょうか。

 繰り返しますが、現状では、米国はそういう選択はしないと思います。トランプ大統領は、脅しや駆け引きもあって時に強硬発言をしますが、私の知っている米国の制服組(軍人)は、軍事行動をとることに対する「正当性」にものすごくこだわります。国際法上、どうなのか、正義はあるのかと。中でも国連決議があることにもこだわります。実際、戦争になったら、双方に相当の被害が出るというのもありますが、じつは制服組の方が戦争には慎重なのです。

 結局、米国は、北の核保有を認めざるを得ないということで、「核シェアリング」(同盟国で核兵器を共有する政策)などによって、どう北の核抑止をするかという軍備管理の方向に戦略を変えていく可能性が大だと思います。もしかしたら、米朝がそうした方針で先に手を握り、日本や韓国が核持ち込みなどに対する国内合意ができていないまま慌ててしまうということもあるかもしれません。

伊藤俊幸(いとう・としゆき)/1981年に防衛大卒業後、海上自衛隊入隊。潜水艦「はやしお」艦長などを務めた後、在米日本大使館防衛駐在官、防衛省や海上幕僚監部の情報部長として、北朝鮮の核開発、「9・11」テロなどの安全保障、危機管理を担った。海上自衛隊呉地方総監を最後に2016年退官。現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授(リーダーシップ論、安全保障論)
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