ペットの将来を託せる
負担付遺贈
ご高齢のご婦人から、二人で相談に行きたいとお電話をいただいたのは朝10時頃でした。その日の夕方に事務所にいらしたご婦人の腕には、小さなチワワが抱きかかえられていました。
その姿を見て「あれっ?」と思ったものの、最近はペットも家族の一員なのだと合点がいった私は、お話をじっくりとお伺いしました。
「最近、体調が思わしくなく、身寄りもいないので、チワワの太郎ちゃんのことだけが気掛かりなんです。私の財産のすべてを太郎ちゃんに残したいのですが、どうしたらいいでしょうか。アメリカではマルチーズが14億円相続したとニュースで聞きましたが……」
私は一呼吸置いて、残念ながら日本ではペットに直接財産を残すことができないことをご説明しました。いくらかわいがろうとも、ペットは民法上では「物」として取り扱われてしまうため、権利の主体とはならないのです。そこがアメリカの法律と違うところです。
しかし、そこは私もプロの意地があります。考えうる方法をご提示しました。ペットの世話をしてもらうことを条件に、第三者または身内などに遺産を贈る遺言の方法です。
これを負担付遺贈といいますが、ペットの将来を託せる人を見つけられるか否かがポイントです。ご本人が亡くなったあとに頼りにしていた人(受遺者)が遺贈を放棄することがあるからです。負担付遺贈をする場合には、受遺者と事前に十分話し合っておくことが大切です。
また、遺言によって、遺言執行者をご自分の相続とは利害関係のない専門家に指定しておけば、遺言の履行の請求や取消の請求をその専門家にさせることができる点もお伝えしました。
ご婦人の不安そうな顔はぱっと明るくなり、「私の友人に太郎ちゃんの世話を頼むので、遺言執行者は引き受けてくださいね」と私の手を取り、にっこりと微笑まれました。私は責任の重さを感じながらも充実感に満たされたのでした。
もしあなたに、ペットという名の家族がいるなら、このような方法も参考にされてみてはいかがでしょうか。