過去にもあった「IBMデザイン」という組織

 現在IBMでは、「You with IBM」というメッセージを使っている。このメッセージが意味するのは、クライアントと共創していく姿であり、まさに、顧客視点に基づいたデザインシンキングそのものだといえる。

 実は、IBMは1956年に、当時のCEOであったトーマス・ワトソン・ジュニア氏が、IBMデザインという組織を設置していた歴史がある。

 イタリアを訪れたワトソン・ジュニア氏は、街並みを飾る美しいデザインの店舗や、ウインドウの商品を見て感動し、BtoB事業を展開するIBMにも、近代的な企業デザインを持ち込んだ。このとき、ワトソン・ジュニア氏は、IBMデザインを発足し、エリオット・ノイズ氏を招聘したほか、イサム・ノグチ氏などのデザイナーがここに参加。コーポレートデザインプログラムを立ち上げ、最先端の「ニューコンシューマーイズム(新たな消費主義)」の流れを見据えた取り組みとして成果をあげた。

 ギルバート氏は、「もともとIBMはデザインの力を理解している会社である。企業のデザインは、ブランドや製品の価値を高めるだけでなく、顧客と企業が関わる上で、重要な役割を持っていることを熟知していた。そして、IBMは、デザイナーとコラボレーションする文化も持ち続けてきた企業でもある」と振り返り、「いま取り組んでいるIBMデザインは、こうした経験をもとに、デザイナーが持つ思考をビジネスプロセスのなかに取り入れ、顧客の体験を改善することを狙い、よりモダン化したものへと進化させている」とする。

 IBMのエグゼクティブフロアは、IBMデザインの設置後、全面的に改装され、壁をなくし、エグゼクティブのコミュニケーションの仕方が大きく変化しているという。

 一方で、2017年から、オープンコミュニケーションを行うことができるデザインスタジオの設置を開始し、これまでに、全世界に40ヵ所以上開設している。ここを拠点にして、デザイナーが参加した様々なプロジェクトが推進されている。実はこの施設も発想がユニークだ。ここに設置されている設備は重量が40kg以上のものはひとつもない。1人で動かすことができるものだけで構成されているのだ。

「プロジェクトの種類や進行状況によって、デザインスタジオを変化できるようにしている。最初にアイデアを出すときには、椅子に座って作業をすることが多いが、プロジェクトの進行に伴い、椅子やテーブルが不要になることもある」というのがその理由だ。

 IBMデザインがIBM全体に及ぼす影響をみると、ギルバート氏が、「デザインシンキングなしには、IBMは、顧客に向かい合うことができる製品やサービスを創出できない」という言葉も理解できる。そして、経営戦略の立案にも、自然にこの手法が持ち込まれていることもわかる。「デザインシンキングの手法を用いることで、新たな働き方ができ、顧客とのやりとりも変わった。さらに、社内の業務プロセスにおいても変化が起こり、評価やフィードバックの手法も変わった」とする。

 そして、「デザインシンキングを進めると、自然と、共創を進める会社へと移行することになる」とも語る。