だが、安倍首相は本当にこれでいいのだろうか?そもそも、安倍首相に対する不信感の高まりは、森友・加計問題などで首相の「お友達」が優遇されること、共謀罪など国会運営の強引さなどに見られる「権力の濫用」にあった(第158回)。今回の総選挙での大勝で、その不信感が払拭されたわけではない。むしろ、首相が「解散権」の威力を露骨に見せつけたことで、「権力の濫用」のイメージは更に高まったといえる。

 安倍首相の「解散権の濫用」は、2014年12月の総選挙でも問題となった。この選挙で首相は、「消費増税を延期するという決断の信を問う」と宣言した。誰も反対しない政策を実現するのに、解散総選挙は全く必要ない。野党は「予定通り増税を」と言うわけにもいかず攻め手を失い、安倍首相は圧勝した(第94回)。今回の解散権行使は、14年の総選挙よりも、より露骨なものだったといえる。その上、安倍首相は選挙中、森友・加計問題を完全無視した。安倍首相がこれまでの傲慢な態度、強引な手を改めることは絶対にないだろう。

野党の政策を奪って実現する
「自民党の強さ」を露骨に出してきた安倍首相

 安倍首相の傲慢さ、強引さを示すことがもう一つある。それは政策面についてだ。今回の総選挙で、首相は「全世代の社会保障」を打ち出した。2019年に予定される2%の消費増税を教育無償化や子育て支援など、現役世代へのサービスの向上に当てるというものだ。

 この現役世代重視という方向性は、ほぼ全ての政党が打ち出していた。増税が高齢化社会への対応と、財政再建のために充てられて、最も重税感が強い現役世代になんの見返りもないという不満への対応が必要ということは、ほぼ全ての政党が認識しているからだ。この連載も、「高齢者のための増税から、若者のための増税へ」と主張してきた(第133回)。

 ただ、安倍首相が打ち出した政策は、元々前原民進党代表が主張してきた「All for all」とほぼ同じものである。いわば、前原代表の政策をパクったものだということだ。また、安倍首相は憲法改正についても、枝野幸男立憲民主党代表の「枝野私案」に酷似した私案を打ち出している(第162回)。これも、ほぼパクリに近い。その結果、前原代表も枝野代表も、自らの私案とは違う政策で、選挙戦を戦うことになってしまった。

 ある意味、今回ほど自民党の伝統的な強さが際立った選挙は珍しい。それは、自民党が「野党の政策を自分のものにしてしまい、それに予算をつけて実行することで、野党の支持者を奪ってしまう」という、「包括政党」(キャッチ・オール・パーティ)としての強さである(第140回)。かつて、福祉政策や環境政策などで、自民党は野党の政策を奪い、野党を弱体させてきた。

 今回の総選挙で、安倍首相はその強みをなりふり構わず露骨に出してきた。政策論争がなかったという批判があるが、それは野党の体たらく以上に、安倍首相が政策論争を封じ込んでしまったからである。もちろん、それができるのは政権政党の実績の積み重ねだということはあるだろう。だが、あまりに露骨に「政策泥棒」的な姿が見えるのも、首相に対する国民の不信感を高め、今後の政権運営に禍根を残しかねないのではないだろうか。