直感に意識を向ける
CEOに就任されてから6年近く経った現在、CEOの立場にある人たちにしかできないこと、そして彼ら彼女らがすべきことは何かについて、あなたなりの結論があれば、お聞かせください。
CEOこそ、戦略を決定し、その一番の提唱者となり、そして「あれこそ我々が向かっているところだ」と宣言する人物にほかなりません。
また、自社に採用すべき基準を設定することも、CEOの任務です。具体的には、社員の行動規範、社員同士の関係、自社と自社製品に求められる倫理基準、そして自社のグローバルな行動規範を定めます。
これらに加えて、優れた社員を採用し、その意欲を喚起するという任務もあります。CEOレベルでは、これが何より重要です。
たえず学び続ける姿勢が必要であると、私は信じています。12歳の息子が宿題について愚痴をこぼす時、私はいつも次のように言って、このことを彼に思い起こさせます。「だがね、お父さんを見てごらん。毎晩、宿題をしているだろ」
CEOとして避けるべき行為は何ですか。
CEOは広範かつ深遠な知識の持ち主であるべきですが、何でも知っているふりをするのは禁物です。なぜなら、すべてを知り尽くしているわけではないのですから、全知のように振る舞うべきではありません。もしそうすれば、ほかのさまざまな意見を遮断することになるでしょうが、それはCEOにとって危険な状態です。CEOは近づきやすい存在になる必要があります。
ただし、それと同時に、きわめて慎重に自分の時間のバランスを考えなければなりません。集中力を高めたり、自分の時間を管理したりするために、時には、超然とした態度を示し、議論を遠ざけることも必要です。
あなたはご自身のことを、数字に動かされるリーダーというよりは、むしろ直観的なリーダーとお考えですか。
すべての意思決定において、直感的、感情的な要素があると思います。ディズニーは創造的な企業です。我々が創造性を発揮すべき方向はどこなのかを判断するに当たり、私は調査にあまり頼ったりしません。
数年前、私はハーバード・ビジネス・スクールの講座に参加しました。授業では、ディズニーのピクサー・アニメーション・スタジオの買収に関するケース・スタディに取り組んでいました。学生たちの分析は本当に優れたものでしたが、買収を決定する際に入り込んだ感情的な要素については、まったくわかっていませんでした。それはビジネス・スクールでは評価できない要素ですし、また実際に案件に携わるまで学ぶことはできないものです。
とはいえ、当社は分析的な企業でもあります。本当に頭の切れるスタッフたちが、将来性の高い事業に関する意思決定を分析しています。そしてもちろん、相当額の資本を投じる前には、社内である種の評価基準を設定します。
ですが、結局のところ、一連の数字を見る時でさえ、それらの正当性を信じるかどうか、ほかにも重要な要因を検討すべきかどうかに当たっては、直感的に決断を下したり、あるいは本能の声を聞いたりする必要があります。
いままでのキャリアにおける試練の時期を覚えていますか。
23歳になった時、1つの試練に遭遇しました。私は上司から「君には出世は無理だ」と告げられたのです。23歳といえば、多くの人が無限に近い可能性を秘めている時期ですが、その可能性も、自分自身と自分の能力を信じることができなければ、閉ざされてしまいます。
ただし、私は自分自身を信じるように育てられました。そのため、上司から出世は無理だと告げられた時、彼は間違っており、そのことを証明したいと思いました。それは決定的な瞬間でした。なぜなら、自分のそのような一面、すなわち「おのれを信じる」ことについて、余すところなく理解しなければならなかったからです。