大きな挑戦に突き動かされる
あなたがアイズナーの後任に決まる以前、あなたのことを過小評価して、あなたがCEOに就くことはけっしてないと断言する人たちもいました。自分に有利になるよう、このような見方を逆手に取ったのですか。
私が他人の期待に照らして自分自身を判断することは、けっしてありません。むしろ、これまでの数十年の間に与えられた仕事の内容と、そしてこれらの仕事をどれくらいうまくやれたかを基準にして、自分のことを判断しています。
娘たちから「お父さんを突き動かしているものは何なの。権力、それともお金かしら」と尋ねられたことがあります。私は「大きな挑戦に突き動かされているのだよ」と答えました。
世界で最も偉大な企業の1社を経営することを目指して昇進を重ね、そして信じられないほどの価値を生み出してきた人々の後に続くという挑戦に、私は心酔しています。
あなたは世界最大のメディア企業のトップです。数年前であれば、そのような状況は呪縛のように思えたかもしれません。いまは、業界を代表する人物であることに慣れましたか。
ディズニーが大企業であるとは考えていません。当社は素晴らしい製品と素晴らしい経験、そしてそれらを相互に結びつけるノウハウによって価値を創出しています。会社の規模は管理できる範囲内ですし、この規模が価値を破壊するマイナス要因になるとは思いません。
それでもやはり、規模は課題の1つですよね。
規模が適切に管理されていない場合には、それゆえの危険性があります。大きくなればなるほど、それだけ意思決定の中央集権化に気をつける必要があります。
ブランドを管理したり、何らかの基準を導入したりする場合には、中央集権型の意思決定は有効です。ただし、会社の事業分野とその舞台となっている市場が大規模かつ多様化している場合には、中央集権型の意思決定は物事を遅らせるため、まさしく足かせになる可能性があります。
リーダーに必要な特性は何でしょう。
リーダーは、楽観主義者でなければなりません。悲観主義者であってはならないのです。職場では、熱意と気迫を示さなければなりません。失敗して落ち込んでいる姿をほかの人たちに見せてもいけません。そのような甘ったれた態度は許されないのです。
私は大きなリスクを創造的に冒すことの意義を信じています。失敗する場合は、月並みに失敗するのではなく、何か真に独創的なやり方で、真にリスクを負って失敗すべきです。
事業では、失敗が偉大な師になることがあります。あなた自身の過去を振り返って、意義ある失敗はありますか。
失敗でくよくよしないことが重要であると、私はずっと信じてきました。社員たちには「常に別の課題があるのだから、目の前の成功にいつまでも酔いしれていてはいけません。ただし、失敗に打ちのめされてもいけない。失敗に学んだら、先に進みなさい」と言い聞かせています。
当社では、非常に多くの決断を創造性に基づいて下すため、失敗も当然ながらかなりの数に上ります。私は5年近くの間、アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニー(ABC)でゴールデン・タイムの番組制作に携わり、スタッフとともに多くの成功を収めました。その一方で、たくさんの失敗も経験したおかげで、きわめて早い段階で失敗から立ち直る術を会得しました。
朝、起きると、前日の視聴率が飛び込んできます。それらの数字を眺めて、結果が悪ければ、やはり「あぁ、何てことだ」と思います。ですが、いつまでも布団を被って寝ているわけにはいきません。それでも出勤しなければいけないのです。
そうはいっても、失敗を無視したり、軽視したりすることを奨励しているわけではありません。そのような態度を取ることも間違っています。そうではなくて、失敗の経験をきわめて慎重に、かつ全体像のなかでとらえる必要があります。