顧客との新たな交流
次に、御社の顧客についておうかがいしましょう。ソーシャル・メディアの台頭によって、だれもが発言権を持つようになりました。この風潮を、どのように事業に組み込んでいますか。
現在、〈フェイスブック〉上では、1億6000万人を超える人たちが、ディズニー関連のファン・グループに属しています。これらの人たちは、ディズニーとつながっていたいと心から思っています。そのおかげで、心地よい経験を提供するために、彼ら彼女らにアクセスすることができます。
また、大勢のママ・ブロガーたちが、ディズニーについて投稿しています。我々は、彼女たちとの交流を始めました。たとえば、彼女たちを各種イベントに招待しています。
私も先日、ママ・ブロガーの一団と一緒にディズニーの新しいクルーズ船に乗り込みました。私のような立場の人間がクルーズ船上でママ・ブロガーたちと懇親するなど、5年前にはまったく考えられないことでした。世のなか、ずいぶん変わりました。
あなたも〈フェイスブック〉のアカウントをお持ちですか。
持っていますが、個人では登録していません。家族や近しい仲間たちと一緒に利用しています。その一方で、私は毎日、本名「ロバート・アイガー」宛てのeメールをチェックします。そして時々、顧客からのメールに返信します。
コンテンツをつくるに当たって、ディズニー・ファンたちの手を借りてみてはいかがですか。
私の経験から申し上げれば、創造的な活動に委員会のようなアプローチを採用すると、たいてい失敗します。あるアイデアや創造活動の方向性に対する個人的な思いはかき消されてしまうでしょう。大勢の人たちを集めればこれまで以上の創造性が得られるなどと、私は思ってはいません。
たとえば、いまやデジタル・シネマがあり、一本の映画に三種類の結末を用意できる時代ですから、映画館の観客の皆さんに結末を決めさせるというアイデアは、興味をそそります。ところが、実際にそれをすれば、物語が無茶苦茶になります。そこには落とし穴があります。ですから、それはいりません。
先頃、上海のテーマパークが最終段階を迎えました。多くの投資家にとって中国はじれったい存在であるのは間違いありません。御社の場合は、いかがでしたか。
そうですね、上海ディズニーランドの着工に至るまでの交渉とプロセスに要した時間は、ゆうに10年を超えましたから。
この経験は多くの点で、「忍耐」という言葉の意味をあらためて考えるきっかけになりました。
ですが、我々がそれほどまでに忍耐強かったり、粘り強かったり、あるいは何かを成し遂げることに熱心であったりしたのは、「これは素晴らしいチャンスだ。おそらく長期的に見れば、最大のチャンスである」と信じるからです。
中国の巨大な人口そのものに加えて、技術開発から中産階級の成長と平均可処分所得の伸びに至るまで、息を飲むほどの変化を目の当たりにして、我々はこのチャンスを心底信じるようになったのです。
中国人の好みに合わせるために、どれくらい変更を加えますか。
紋切り型のアプローチは取りません。55年にカリフォルニアに建設したテーマパークを、上海市浦東(プートン)新区のどまんなかにそのまま移植するわけにはいきません。
「文化は均質化されつつある」と考えたくなりますが、私はその考えが正しいとは思いません。特に中国のような場所では、地元文化への誇りがかつてないほど高まっています。
これは、1つには世界の他の地域から文化が侵入しているためです。我々は皆、自分たちのあり方と出自に、生まれながらに誇りを持っています。上海ディズニーランドでは、この生来の自尊心を尊重して、テーマパークに反映させる必要があります。
そこでは「メインストリートUSA」を歩いていくと「シンデレラ城」に着くといった設計にはしないつもりです。私の考えでは、そのようなやり方は文化帝国主義じみたところがあるので、避けたかったのです。
お話をうかがっていますと、ご自身のお仕事を楽しんでいるような印象を受けます。
素晴らしい仕事ですからね。我々は楽しいことをお届けする事業に従事しています。エンタテインメントを生業にしているわけです。親子三代がディズニーランドで楽しく1日を過ごしている姿を見ていると、まさに働きがいを感じます。また、このような伝統のある会社を経営することは楽しくもあります。
ディズニーは、皆さんから特別な存在であると感じていただいています。そのことをありがたく思うと同時に、真剣に受け止めています。この偉大なブランドを管理していくことには、しかるべき責務が伴います。
【聞き手】
ハーバード・ビジネス・レビュー 編集長:アディ・イグナティウス
編集部/訳
(HBR 2011年7-8月号より、DHBR 2011年12月号より)
Technology, Tradition and The Mouse
(C) 2011 Harvard Business School Publishing Corporation.