長期的な未来に投資する

先の金融危機を経て、私たちの多くが、金融システムをどのように是正すべきかについて考えるようになりました。その際、焦点になっている問題の1つが、株主に報いるというCEOの義務についてです。はたして、この義務は持続的成長を生み出すことと相反しているのでしょうか。

短期思考と長期思考の相克ですね。残念なことに、たいていの場合、我々は直近の四半期業績で評価されます。このような偏重は、報酬戦略にまで浸透しています。明らかに、今日の経営者たちは、短期業績に対して過大な報酬を享受する一方、長期投資に対しては過小な報酬しか受け取っていません。

私も社員たちに対して、この問題を抱えています。彼ら彼女らにはディズニーの長期的な未来に投資してほしいと思っています。もし我々が今日、遠い将来により多くの資源を投じれば、利益率や四半期利益は現在の水準よりも低くなることでしょう。

幸運にも、当社は将来への大規模投資を実施するに当たり、効果的な手法を開発しました。ですが、私見を申しますと、アメリカでは四半期業績に向けられる注目度が、大きすぎると思います。

なぜ、このような状態になったのでしょうか。

1つには、持株制度の性質が関係しています。株主が株式を所有する平均期間は、昔に比べてずっと短くなっています。このため、直近の業績へ力点が置かれすぎるきらいがあります。

これに加えて、事業報告が頻繁に行われるようになりましたが、どれも短期業績に関するものばかりです。この傾向はウォールストリートのアナリストたちの株価予想と密接に結びついています。

あなたはCEOとして、そのようなことのいっさいを避けることができますか。

当社は四半期業績予想を出しません。私が現在の職に就任して5年になりますが、一度も公表していません。とは言うものの、四半期業績予想を発表せずに四半期報告書を出すと、マスコミはこぞって「ウォールストリートの予想に届かなかった」と大きく取り上げます。

さて、何が届かなかったというのでしょうか。自社の見込み通りの業績を達成したのですから、届かなかったわけではありません。このようなことは健全とはいえません。

そのような状況に対して、CEOみずからが解決策を提示することは可能ですか。

それについて、私は何も是正することも、改善することもできません。ですが、我々がどのようにディズニーを経営してきたかについて申し上げれば、私はいままで懸命に取り組んできました。そして時には、傍から期待されていることに気を取られないように、私自身を厳しく律する必要もありました。

企業の四半期業績予想に関する、いわゆるアナリスト・コンセンサス(銘柄ごとの業績予想などの平均値)は、当該企業とは本来、無関係であるはずです。しかし実際には、この指標を無視することは難しく、無関係ではいられません。

とはいえ、短期的な分析に基づいて会社を経営することがないよう心がけています。

それでは、次のように想定してみましょう。年次株主総会で、出席者の一人が立ち上がり、「あなたは今年1年間に、給与とボーナス、そして株式報奨によって、総額2800万ドルを受け取りましたが、あなたには、本当にそれだけの価値がありますか」と質問しました。さて、何とお答えになりますか。

幸い当社には、そのような質問に回答できる会長や報酬委員会がいます。私は自分の報酬について、公の場では何も申し上げないことにしています。そして、いまこの場でも、やはりお話ししたくありません。

私がこのようにお尋ねしたのは、あなたが先ほど「報酬制度がうまく機能せず、短期的に対応することが評価される」という旨を述べられたからです。

私に求められているのは、ディズニーの長期的成長を生み出すことです。なぜなら、私には長期インセンティブ・プラン、たとえばストック・オプションやストック・アワード(無償で株式をもらえる制度)などが与えられており、これらは長期にわたって付与され、かつすぐには権利行使できないものになっています。その時まで会社を成長させることが、私を強く動機づけているものなのです。

ただ、ほとんどの企業の報酬制度は、いまだ短期業績に偏っています。当社の長期インセンティブ制度も画期的とはいえ、直近の業績と直結した報酬に匹敵するほどのものではありません。

報酬委員会は、株価以外の指標に注目すべきですか。

当社ではバランスを取っています。私の報酬は主にROIC(投下資本利益率)、当社で言うところの営業収入(operating income)、そしてEPS(一株当たり利益)に基づいています。それから、株価S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)500種指数をベンチマークと比較してどうであったかについても考慮に入れています。以上のように、当社の報酬制度、特に私の報酬は、複数の評価基準で決められています。

私の報酬の大半は業績に基づいています。ただし、ここで言う「業績」は、繰り返しますが、長期よりも現在と連動しています。ですから、私の報酬と、株主の投資との間には、少なくとも整合性があります。