要約本文

◆巷にあふれる睡眠神話
◇「睡眠は90分周期」ではない

 睡眠にまつわる話の中には、根拠が乏しいのに多くの人が信じている、「睡眠神話」と呼ぶべきようなものがある。

 そのうちのひとつが、「睡眠のサイクルは90分周期である」というものである。睡眠の状態として、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」があることはよく知られている。眠っているときには、この2種類の状態が規則正しく交互に繰り返されるのだ。繰り返しの1単位が「ノンレム睡眠+レム睡眠」であり、それが90分だというのが、「90分周期」という俗説の根拠となっている。

 しかし、じつは、「ノンレム睡眠+レム睡眠」にかかる時間には個人差があり、また日によっても変わってくる。1時間以内のこともあれば120分のこともあるのだ。

 加えて、ノンレム睡眠とレム睡眠が、それぞれ深い眠りと浅い眠りだという言い方も間違っている。それぞれの状態は、質的に全く異なるものなのだ。ノンレム睡眠のあいだは脳の活動が低下しており、そのため筋肉の活動も低下している。自律神経は副交感神経が優位になっているので、心拍数や血圧や、呼吸数も下がっている。一方で、レム睡眠のあいだ、脳は覚醒しているとき以上に強く活動している。自律神経も激しく変動しているが、体が暴走しないように神経系や感覚系は完全に遮断されている。そのため、こちらは金縛りのように体に力が入らない状態となっている。

◇睡眠に「ゴールデンタイム」はない

 よく「22時から深夜2時までが睡眠のゴールデンタイム」であり、そのあいだに「成長ホルモンが活発に分泌される」から、ゴールデンタイムにきちんと眠ろうと言われる。こちらも根拠がない睡眠神話である。

 成長ホルモンが睡眠中に分泌されるのは確かだが、それは特定の時間に起こることではなく、就寝後最初にあらわれるノンレム睡眠のときに起こる。睡眠中、「ノンレム睡眠+レム睡眠」の組み合わせは4~5回繰り返されるが、そのうちで一番深いノンレム睡眠があらわれるのが、就寝後最初のサイクルなのだ。そのときに成長ホルモンが分泌されるので、「何時に寝るか」はじつはあまり関係がない。要は深いノンレム睡眠に入れるかどうかなのである。大切なのは寝る時間帯ではないのだ。

◆睡眠をつくりだす脳、覚醒をつくりだす脳
◇なぜ夜眠くなって、朝起きるのか?

 私たちは、朝起きて、夜眠くなる。このことには、2つの要素がかかわっているという。

 ひとつは、「概日時計」、つまり体内時計である。24時間ぴったりの周期ではないが、おおむね1日周期で、昼夜で覚醒の出力を調整するリズムを刻んでいる。もうひとつは「睡眠負債」である。これは一種の考え方で、起きている時間が続くにつれて脳内になにかが溜まっていって、睡眠をとるとそれが解消されるという概念だ。睡眠物質の存在について研究が進められているが、今のところその正体については明らかになっておらず、物質が存在するにしてもひとつの物質では説明できないということがわかってきている。