旅キャピタル社長 吉村英毅
Photo by Toshiaki Usami

 今週は大阪、来週は福岡、そして月末は北海道へ──。

 働き盛りのビジネスマンの出張はせわしない。移動中に弁当をかき込んで、取引先との商談や会議のスケジュールをこなし、宿泊先のホテルでもノートパソコンに向かう。空港や駅では、わずかな時間で土産を買っていく。それを「旅行」と呼ぶ人はいないが、そこにビジネスチャンスを見つけた「旅行代理店」が存在する。

 旅キャピタルは、インターネット専門の旅行代理店だ。創業5年目にして100億円を超える売上高を記録しているのは、「出張経費カット」や「煩わしい手配・管理業務」などの企業の悩みを、格安チケットとセットに提供するITサービスで、ものの見事に解決してしまったからだ。

 華やかなリゾート旅行とはひと味も、ふた味も違う、法人向けビジネスの掘り起こし。そんなユニークな旅行代理店を率いる、社長の吉村英毅は、中学生の頃からビル・ゲイツに憧れる“起業家”だった。

集客力のある他社ブランドによる
旅行販売でヒット

「サラリーマンになろうと思ったことはありません」。曾祖父が食品会社の創業者であり、実業家が多い家風もあって、小さな頃から会社をつくることで頭がいっぱいだった。東京大学経済学部の3年生だった2004年、アルバイトと借金で集めた700万円を資金に、前身となるベンチャー企業を立ち上げる。寝袋一つで週4~5日はオフィスに泊まり込んで働き、07年に現在の会社設立にこぎ着けた。

 旅行代理店は「在庫がいらない」というメリットの反面、宿泊プランなど商材の差別化が難しく、価格競争で「薄利多売」に陥ることが多い。乱立する旅行サイトを目の当たりにして、吉村が「なんとか抜け出す方策が欲しい」とまず考え出したのが、他企業のブランドで旅行商品を販売する仕組みだ。

 たとえばレンタルビデオチェーンのTSUTAYAのサイト上では会員カードが使える「Tトラベル」、オフィス家具販売大手のアスクルなら「出張サポート」と、まるで各社の自社商品のようだが、実際は旅キャピタルがシステム構築、チケット発券、顧客対応のすべてを担っている。サイトの売上金額に応じて、各社に利益を還元する。

 競合業者もいなかったため、協力サイトはみるみる増加し、一部は月間1000万円以上を売り上げる強力な販売窓口に化けた(今年10月時点で約550社)。会社の売り上げは創業時の約6億円(08月3月期、11ヵ月分)から、1年半後には、約42億円(09年9月期)と急成長していった。

 ところが、思わぬところに落とし穴が潜んでいた。それが昨年1月の日本航空(JAL)の経営破綻による、目玉商品の“消滅”だった。

 同社の急成長を支えていたアイテムの一つが、JALと全日本空輸(ANA)が株主向けに発券する「株主優待券」だったのだ。正規料金の50%で航空券が買えるうえ、当日でも搭乗便を変えられるメリットに目をつけて、これを大量に仕入れて格安商品に仕立てる。これが出張費を浮かせたくても、キャンセル料の発生が怖くて事前の予約割引を使いにくいビジネスマンの心をとらえて、リピーター層となっていたのだ。