プロダクト・ライフサイクルを考える

立三さんは、指にシェービングクリームを付けて、鏡にグラフを描いた。

「一般的に、製品は市場に投入されてから、こういう感じで売れ始めたものが徐々に売れなくなり、姿を消すんや」

●導入期:新製品投入直後。売上も利益も少ない。

●成長期:売上、利益が急伸。同一製品カテゴリーの競争が激しくなる。

●成熟期:売上、利益が安定。同一製品カテゴリーの競争の勝者が利益を享受。

●衰退期:売上、利益が小さくなり、同一製品カテゴリーが消えていく。

小さな組織に必要なのはお金ではなく考え方

 

 


 

 

 


「わかるか?」

「いや……」

「そうか。じゃあ、車に例えて考えよか」

「はい」

●導入期:日本でガソリンエンジン車の製造販売が始まった頃、まだ車を買う人自体が少なかった。自動車メーカーの規模も小さく、売上も利益も少なかった。

●成長期:社会的に「車」が認知され、車市場そのものが成長するので、売上、利益が急伸する。

●成熟期:群雄割拠だった市場競争も淘汰が進み、数社に絞られる。トップ3は、トヨタ、日産、ホンダ。競争も落ち着き、売上、利益は安定する。

●衰退期:電気自動車が出現し、ガソリンエンジン車自体が衰退していく。

「イメージできたか?」

「はい」

「戦略系経営コンサルタントは、どういう製品で勝負するか、どのタイミングで諦めるかを考える。このプロダクト・ライフサイクル上の位置を見ながら考えるのが専門なんや」

立三さんは大きく息を吐いた後、続けた。

「理容室というのは、1000年ぐらいは歴史あるやろ。プロダクト・ライフサイクルがあるのかどうかもわからんぐらい、長いこと続いている業界やろ」

「はい」

「しかも、『製品』というものがあるかどうかもわからないサービス業やからな……」

「ダメっすか?」

オレは涙声になった。

「いや、絶対にダメということは世の中にはない。でもな、厳しいなあ。難しい」

【プロダクト・ライフサイクル】
市場に製品が投入されて、次第に売れなくなり、姿を消すまでのプロセス。