リーマン・ショック後の販売低迷、加えて急激な円高、さらに東日本大震災やタイの洪水の発生など、自動車メーカーの経営は大きな試練を迎えている。環境が厳しさを増し、ITへのニーズが変化するなか、本田技研工業のIT戦略は大きく変わろうとしている。“ホンダらしい”現場の自由闊達さを維持しながら、どうITのガバナンスを利かせようとしているのか、IT部部長の有吉和幸氏に聞いた。

各地域で完結した「インターナショナル化」から、
地域間がつながる「グローバル化」へ

――有吉さんがIT部部長に就かれたのは2005年です。それから自動車産業を取り巻く環境はどのように変化しているでしょうか?

ありよし・かずゆき/本田技研工業株式会社 IT部 部長 参事。1953年生まれ。1976年本田技研工業入社。77年情報システム部門に配属され、補修用部品の領域でシステム開発を担当。98年、部品事業本部 で事業企画、人事、経理を担当。2004年部品供給部長を経て、2005年IT部長兼IT企画室長。07年から現職。

 2008年のリーマン・ショック後から風向きが変わりました。それ以前は、為替変動に強い「現地調達、現地生産」という方針でしたので、各地域で生産・販売が完結していた。ITの活用も、それぞれの地域で完結したものしか求められていませんでした。世界に生産・販売は広がっていたものの、横のつながりはほとんどない。「グローバル化」ではなく、国内で生産・販売が完結した国々が集まる「インターナショナル化」でした。

 それが大きく変わりました。たとえば欧州で生産する場合も、材料は中国から調達するほうが安くて効率的であったりします。東日本大震災の影響も、日本だけに留まりません。東北の部品が調達できなくなると、世界各地で影響が出る。各国が複雑に関係し合うようになったため、グローバルに情報が見えることがITに求められるようになりました。

――ITへのニーズが変わってきていますね。

「グローバルな情報の見える化」は、本来ITが得意とするところ。昔からIT部門が提案していましたが、当時は現場からニーズが上がってきませんでした。ほかの企業であれば、現場からニーズが上がらなくても、経営層がグローバルで数字を見たいがために、現場に情報を求めて推進するケースはあったかもしれませんが、ホンダでは「現場」「現物」「現実」を重視する「三現主義」が徹底しているので、現場からニーズが上がらないものは実施されませんでした。

 しかし今は、各地域で生産や販売が完結しません。関係する地域間でスプレッドシートやメールを使って対応するには限界がきています。「ITで何とかしてくれ」という声が上がり始めました。

 ただその一方で、予算は現場が持っており、グローバルのIT化のためにコストをかぶるのは嫌がります。その結果、部分最適が優先され、全体最適が二の次になってしまう。IT部門がこれをうまく調整する必要があります。

――IT部門にも新たな役割が求められますね。

 そうですね。IT部部長になった2005年から、IT部門の組織を大きく変えていたため、求められる役割の変化にも対応することができました。ユーザからの依頼を受けた仕事をするという「請負型」だったのを、ユーザと一緒にプロジェクトを組んで要件を出しながら、能動的に参加するかたちに変えたのです。