ドナルド・トランプ米大統領が、エルサレムをイスラエルの首都として正式に承認すると宣言した。1995年制定の米連邦法は、大使館を「分裂していないエルサレム」に置く必要があるとしているが、米大統領が半年ごとに移転先送りを指示することが認められ、歴代大統領は、外交戦略上の影響を懸念して先送りしてきた。トランプ大統領は、米国の外交政策の歴史的大転換を行った。
トランプ大統領の「宣言」には、イスラム圏から欧州まで、国際社会から「中東和平を遠のかせる暴挙」であると一斉に批判が起こった。日本では、「ドナルド・シンゾー関係」を「過去最高の日米関係」だと誇ってきた安倍晋三政権は沈黙しているが、様々な識者が「面子を捨て、恥も外聞もなく、権力の限りを「自分ファースト」のために活用して、トランプの俺流に徹している」(嶋矢志郎『トランプの「自分ファースト」が日本の中東ビジネスまで破壊する』)など、総じて厳しい論調である。
しかし、本稿はトランプ大統領の「宣言」は過激ではあるが、決して「自分ファースト」ではなく、「アメリカ第一主義(アメリカファースト)」という米国の党派を超えた新しい国家戦略の枠内の決断だと考える(本連載第170回)。「シェール革命」で中東の石油が必要なくなりつつある米国は、「エルサレム首都承認問題」についても、アラブに気を遣う必要がなくなった。換言すれば、トランプ大統領の「宣言」で「中東和平が遠のいた」というが、そもそも米国は中東和平に関心がなくなったということだ。
「世界の警察官を辞める」ことも
国際社会の不安定化も米国の意思
この連載では、「シェール革命」が米国の国家戦略を根本的に変化させ、それが国際社会の構図を劇的に変えつつあることを指摘してきた(第170回・P4)。「シェール革命」とは、主に米国で生産されるシェール石油・ガスによって、米国が石油の輸入国から輸出国に変わることによって起こる米国内と国際社会の劇的な変化のことである。米国は、2011年にロシアを上回り世界最大の産ガス国になり、2013年にはサウジアラビアを上回り、世界最大の産油国となった。
米国は、エネルギー自給を達成することで、国内で「ものづくり」が次第に復活し、新たな雇用が生まれつつある。独りでやっていけるということになり、「世界の警察官」として、産油国が多数ある中東など国際社会の安全を保障することに関心を失い始めているのである。