「意見」を聞くと、自分の考えがつぶれてしまう

「批判をもらうのは良いことでは?」とあなたは思っているかもしれない。アイデアに夢中になっているとき、「自分は興奮して客観性を失ってしまっている。誰かに公平な目でアイデアを見てもらわなければ」と思うこともあるだろう。

 そして誰かにアイデアを伝え、「駄目な点があれば教えてほしい」と尋ねる。相手は当然、そのアイデアの悪い点を指摘する。だがそれは、間違った視点からの指摘となる。相手はただの直感に基づいてアイデアを見ることになるからだ。

仕事中、人によく「○○」を聞く人が残念な理由話題の書『超、思考法』では、ここに紹介している以外にも、独自の思考ノウハウを無数に紹介している。

 あえて批判を求める必要はない。求めなくても、批判は向こうからやってくる。人は他人のアイデアを批判するのが大好きだ

 以前、同僚にデボラという名の頭の切れる女性がいた。私が新しいアイデアを話すと、途中で何度も「私はそうは思わないわ」「それは間違っている。なぜなら……」といった調子でネガティブな言葉を返してきた。1時間もこのような会話をしていると、精根尽き果てて、彼女にアイデアの良さを理解してもらおうとは思えなくなる。

 いま振り返ると、デボラがネガティブな意見を口にしていたのは私のアイデアの1割程度に対してのみで、残りの90パーセントについては何も言われなかった。それでも、彼女の言葉は100パーセントがネガティブなものだったので、私にはデボラがアイデアを嫌っているのだと思えた。

 たしかに、あのときの私のアイデアはとくに良いものではなかったのかもしれない。だが、アイデアの善し悪しは別として、デボラのような人にアイデアの素晴らしさを伝えようとすれば、話し手は落ち込んでしまうだけだ。これでは、決意を固めることなどできない。このようなことが続けば、行動を開始する前に、せっかくのアイデアを捨ててしまうことにもなりかねない。

ただ意見を聞かずに、「改善案」を求める

 アイデアのためにもあなた自身のためにも、わざわざ批判を求めるようなことはしないほうがいい。ただ意見を求めれば、相手はそのアイデアが既成概念に当てはまらないというだけで、短絡的な批判をしてくるだろう。人は、自分が慣れ親しんだアイデアを好む。相手は、あなたのアイデアは間違っていると語ることで、自分が考えていることのほうが優れていると語っているのだ。それが人間の本性だ。

 だから、まずはアイデアそのものを「理解」してもらい、次に「改善案」を求めるべきだ。改善案を尋ねるほうが大きなメリットが得られる。

 当人がアイデアに情熱を抱いているからといって、その欠陥が見えにくくなることはない。アイデアの強みと弱みは、同時に把握できる。情熱的になっているからといって、そのアイデアが完璧だとは考えないものだ。情熱的でありながら、アイデアの足りないところを自覚し、それを改善することは可能だ。そして、この「アイデアの改善」こそ、あなたが第三者に求めるべきものなのだ

 そのためには、まずは相手にアイデアを理解してもらう必要がある。相手にアイデアを説明する際は、次の5つのステップに従ってみよう。

1.アイデアの内容と、どのように着想したかを説明する。
2.アイデアの実現を目指したときに直面しそうな問題を挙げる。
3.それらの問題を解決するための良いアイデアがないか尋ねる。
4.アイデアを改善するための良いアイデアがないか尋ねる。
5.1〜3と同じ質問を他の人にもしたいので、誰か紹介してくれないかと尋ねる。

 批判や批評を求める場合と、「改善案」を求める場合の違いがわかるだろうか?

「改善案」を求める場合、相手はあなたの決意に冷たい水を浴びせるのではなく、情熱を燃やすための燃料を与えてくれるようになる。その燃料とは、さらなるアイデアだ。最初のアイデアを実現させるために、第2のアイデアが必要になることは少なくない。

 この5つのステップは、相手にアイデアを加えてもらうだけでなく、アイデアを理解してもらうためにも役立つ。人は、自分の手を動かしてパズルにピースを加えたとき、パズル全体の絵をより理解しやすくなるのだ。

(本原稿はウィリアム・ダガン著『超、思考法』から抜粋して掲載しています。ノウハウのさらなる詳細は同書を参照)

ウィリアム・ダガン(William Duggan)
コロンビア大学ビジネススクール上級講師。フォード財団での戦略コンサルタントを経て、コロンビア大学ビジネススクールで、「第7感」について大学院課程とエグゼクティブコースで教えている。また、世界の企業の何千人ものエグゼクティブに「第7感」について講義を行っている。2014年、学長教育優秀賞を受賞。著書に『ナポレオンの直観』(星野裕志訳、慶應義塾大学出版会)、『戦略は直観に従う』(杉本希子・津田夏樹訳、東洋経済新報社)など。『戦略は直観に従う』が「strategy+business」誌で年間最優秀戦略書に選出されるなど、その独創的で精力的な活動は各界で高い評価を得ている。

児島 修(こじま・おさむ)
英日翻訳者。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。訳書に『やってのける』『「戦略」大全』『勇気の科学』『自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義』(いずれも大和書房)、『自分を変える1つの習慣』(ダイヤモンド社)、『競争の科学』(実務教育出版)、『ストラテジールールズ』(パブラボ)などがある。