「英語を学んで、国語の点数が上がる」のメカニズム
では、日本語脳と英語脳は完全に独立で無関係なままなのでしょうか?
そんなことはありません。2種類の言語脳が構築されると、2つの脳を見わたす“第3の脳”の使い方がはじまります。
僕たちがふだん日本語を使う際には、文法のルールや発音などを気にすることはありませんし、たとえそのルールを説明できなくても日本語には不自由しません。
力学上の解説ができなくても、補助輪なしで自転車に乗れるのと同じです。このような知のあり方を暗示的知識(Implicit Knowledge)といいます。
一方、適切なメソッドで外国語を習得した子どもたちは、2つの言語を俯瞰するなかで、両者の構文ルール・語彙・発音・文字体系の共通点や違いに自覚的になります。
その結果、母語である日本語についても概念的な理解が進みます。
「自分たちがどういうルールに基づいて言葉のやりとりをしていたのか」についても、明示的知識(Explicit Knowledge)を得る機会が生まれるのです。
このように、使用言語を客観的に分析する能力を、言語学の世界ではメタ言語意識(Metalinguistic Awareness)と呼んでいます。外国語を学ぶプロセスがメタ言語意識を高めることを指摘する研究はありますし、これは分析的な思考能力にも通じるため、学問での成功にもつながりやすいという報告もあります(Bialystok, 2001)。
以前の連載記事で「生徒に英語を教えると、まず『国語』の成績が上がる」というエピソードをご紹介したことがあります。以上を踏まえると、英語を正しく学ぶことで、生徒たちの母語、つまり「国語」にも波及効果が現れるのは、まったくもって理にかなったことなのです。
実際、外国語をしっかりと学び、もう一つの言語脳をつくった人ほど、日本語のことをよく理解していたりします。「英語の前に日本語が大切だ!」という意見はごもっともだと思いますが、それを主張する人に限って、英語すらまともに操れなかったりします。
果たして日本語しか知らない人が、どこまで日本語の独自性を深く知ることができるでしょうか?ほかの言語を知ってはじめて、日本語の「美しさ」や「奥ゆかしさ」にも気づけるという面は無視できないように思います。