12月19日正午、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日総書記の死去が発表された。北東アジア情勢を翻弄してきた独裁者の突然の退出は、“準備不足”の各国に緊張を走らせた。現在のところ、北朝鮮の情勢に大きな変化はないとの見方が主流だ。だが、世界の“不確実性”は間違いなく高まった。
金正日氏死去の報が伝わった12月19日、世界の市場には少なからぬ動揺が広がった。一時、韓国ウォンは1.8%、韓国総合株価指数は4.9%急落。アジアの株式市場は軒並み下落し、日経平均株価も1.5%安となった。中東情勢の緊張と相まって原油相場が上昇するとともに、投資家のリスク回避からドルが買われた。
もっとも、翌20日には市場は平静を取り戻した。
「株式市場での今後のシナリオとしては、“なにも影響がない”が70%、新しい指導者の権威を示すために北朝鮮が軍事的な示威を行うなどして、多少のリスク回避的な動きが出る可能性が25%。後者の場合でも2~3日で落ち着くだろう」(門司総一郎・大和住銀投信投資顧問投資戦略部長)
「為替相場に関していえば、深刻な要因ではない。1週間後には皆忘れる話」(高島修・シティバンク銀行チーフFXストラテジスト)
市場関係者が一様に楽観視しているのは、金正日氏死去の発表こそ突然だったものの、後継者としてすでに三男の金正恩氏が指名されており、体制の大きな変更はないと見ているからである。また経済面に限っていえば、国交のない日本と北朝鮮の関係はほぼゼロであり、現時点では直接的な影響はほとんど考えられない。
権力継承の行方が火種
経済復興も一時停滞
北朝鮮の政治経済の専門家のあいだでも、同国の情勢に大きな変化はない、との見方が大勢だ。
しかしこれには、「権力の継承が問題なく進めば」というただし書きが付く。
北朝鮮は表向き、朝鮮労働党を中心とした指導体制だが、実際には軍部が大きな権力を握っている。この構造自体は、すぐには変わらないだろう。「だが、両者にとっての“重し”であった金正日氏がいなくなったことで、内部での覇権争いが起きることはありうる。1~2年は様子を見る必要がある」(三村光弘・環日本海経済研究所調査研究部長)。
金正恩氏は28歳という若さで、表立った実績はない。同氏がどこまで権力を掌握できるかは、まったくの未知数である。