この数年間で、マスクをする人が急増したと感じないだろうか。今年4月に福島原子力発電所の事故による放射性物質の飛散を受けて、一時は店頭からマスクが消えるほど爆発的に売れたのは記憶に新しいが、マスクをすることが習慣化している人が増加しているために、市場は確実に拡大傾向にある。なぜ日本人はマスクがかくも好きなのか。
「この3、4年で急速にマスクをする人が増えた。今も上昇トレンドにある」。
小林製薬の調査によると、風邪やインフルエンザの症状があったり気になったりするときに、ほぼ毎日マスクを使用する人の割合は、着実に増加している。2008年が18.0%、09年が26.2%、10年が27.7%、11年が30.6%と増加している。調査は1200人を対象に毎年2月に行っている。「12年もマイナス要因は見当たらない。使用する割合は32%程度まで高まるのではないか」と予測する。
実際、富士経済によると家庭用マスク市場は2011年見込みで販売金額170億円と前年比13.3%増、販売数量でも5億5000万個と前年比10.0%の増加だった。実に日本人1人につき、年4.4個も購入していることになる。ちなみにマスク市場のピークは新型インフルエンザ騒動が起こった09年は340億円、7億8000万個も売れて、品薄状態が続いた。その後、市場は反動減となったが、こうした特殊要因を除けば成長トレンドにある。12年も販売金額は180億円と6%増加を予想している。
市場がこれだけ活性化しているのは、日本人にマスクをする習慣が定着しつつあるからだと言われる。マスク市場の拡大が始まったのは03年頃から。花粉症対策としてマスクを毎日使用する人が増え始めたのだ。そこで登場したのがユニ・チャームの不織布マスク「超立体マスク」。従来のガーゼ素材のマスクと違い、立体形状で隙間ができにくく、花粉が入り込みにくい。また厚みが薄くて息がしやすく、軽量なために人気を集めた。毎日マスクをする人は少しでも快適なマスクを求めており、ニーズにこたえた商品の提供が市場拡大につながった。
風邪やインフルエンザの予防、他人への感染防止にも効果があるとのデータも出てきた。
各社が発売するマスクの多くは高密度の不織布を採用しており、空気中の飛沫ウイルスを99%ブロックすることが可能だ。
ユニ・チャームと関西医科大学の調査では、小学生を対象に子どものインフルエンザ発症率を調べたところ、マスク装着ありは2%だったのに対して、装着なしは10%弱と約5倍の開きがあった。医者においてもマスクの着用を推奨することが多くなっている。今や「風邪をひいているのに、マスクをしないのはマナー違反だ」との意見まで出始めている。
市場拡大の過程で、奇妙なことも起きている。マスクの形状は主に2種類ある。口あて部分がひだ状になっているプリーツ型と、隙間ができにくくて装着感がいい立体型だ。一般的に、性能面、機能面では立体型が勝る。ただしシェアはプリーツ型が約70%であるのに対し、立体型は20%程度しかなく、さらに現在、シェアを拡大しているのはプリーツ型のほうだ。「立体型は、着けた時の見た目を気にする人が多い」(ユニ・チャーム)からだという。
見た目重視のプリーツ型が人気なのは、それだけライトユーザーが増加しているからだろう。実際、マスクに対する違和感は軽減しつつあるため、女性の中には「化粧していないのを誤魔化す」「寒さ対策」などと、本来の目的とは違う使用法まで登場している。
こうした女性を含めたライトユーザーも取り込んでいけば、マスク市場はまだまだ拡大する余地がありそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)