「地味な部下」が、会社のピンチを救った!
――小西さんが育てた人の中で、「この人は劇的に伸びたな」と印象に残る部下の方はいらっしゃいますか?
小西 たくさんいますよ。なかでも、すごく「地味」だった社員が、劇的に成長したことがあって、それは私にとってもよい思い出となっています。
彼をB君とします。B君はどうにも仕事の飲み込みが遅く、プレゼンをさせてもピントがずれていて、何を言っているのかよくわからないと感じることが多くありました。ただ、なんとか成長しようと、彼なりにもがいて足掻いて努力しているのは伝わってきましたし、たまに提案する独創的なアイデアには目を見張るものがありました。
――なるほど。
小西 つまり、「発想力」こそが彼の長所なんです。それを、どうやって伸ばすか、どうやって開花させるかを考えました。
まずは、B君のよくわからないプレゼンをじーっと聞く(笑)。そのあとで、プレゼンの内容について気になったところを質問します。ピントはズレてるし、わかりにくいんだけど、プレゼンには彼なりの創意工夫が込められています。ピントさえ合わせれば、彼の「発想力」は会社にとって大きな武器になると思ったのです。
そのピントを合わせるために、「今のプレゼンはわかった。そのうえで、このような視点からだったらB君はどう考える?」と意見を求めます。毎日、この繰り返しでしたね。
――よくわからないプレゼンをじっと聞いてるのも、つらそうですね。
小西 まぁ、そうですね。加えて、プレゼンだけが上手になっても仕方ありませんから、現場で「発想力」を発揮できるよう、実践的な課題も与えました。これが、彼には効いたんです。
――どういうことですか?
小西 当時、B君が所属するプラスチックのシートを成型する部門は多くの注文を抱えていて、毎日忙しい状況が続いていました。プラスチックのシートを型取り、パンチングしてくり抜いて、それを包材として供給するのが仕事ですが、注文は次から次に入ってきて、朝から晩まで機械を動かし続けてもさばききれない。現場からは「新しい機械を買ってくれ」という要望が上がってきました。
――新しい機械で生産性を高めようというわけですね?
小西 ええ。しかし私は経験上、「苦しいときこそ工夫のしどころだ」と心得ています。創意工夫のないところにビジネスは成り立たない。だから現場からの要望に、こう答えました。「たしかに忙しい。新しい機械を買うことはやぶさかではない。ただ、今よりも生産性を上げる方法は本当にないのだろうか。ちょっと考えてみてほしい」と。そして、このプロジェクトをB君に任せたのです。
――難題ともいえますが、Bさんにとってはチャンスでもある。
小西 そう。B君に与えた課題は「生産性を上げる」というもの。この「生産性を上げる」という漠然とした言葉を、Bくんがどう解釈するか。これが大きなポイントです。
例によって、的外れなアイデアをポンポンと出してきましたが、「それで本当に生産性が上がるのか?」と突っ込むと答えに窮してしまう。毎日それを繰り返した末に、2週間後に持ってきたアイデアが素晴らしかった。「今までは1枚のシートから4個分の型しか取れなかったが、これを6個分取れるようにすれば、一度に多くの製品をつくることができる」というのです。
これは素晴らしいアイデアです。一度にできる製品が4個から6個に増えるということは、生産性が1.5倍に上がるということです。新しい機械は買わずに済むうえに、労働時間は変わらないから人件費も増えない。
――たしかに、妙案です。
小西 そう。これでこそビジネスです。私は、B君を褒め称えましたよ。そして、「ぜひそのプロジェクトを進めてくれ」と指示しました。そうしたら、彼はすぐに形にしてくれました。
これ、口で言うのは簡単ですが、現場で実現するのは、そんなに簡単なことじゃないんですよ。「4個取り」を「6個取り」にするには、単に1枚のシートのスペースを有効活用するだけでは成立しないですからね。あくまでもお客様から求められているスペックをクリアしつつ、シートを今までよりも引っ張って、スペースを広げるといったことも必要になります。それを実現させるためには、設計部門や現場の作業員との綿密な調整をしなければならない。結構、骨の折れることなんです。
ところが、これをすべて彼が主導で行い、実現させたんです。
――Bさんの「実現力」が発揮されたわけですね?
小西 そういうことです。この「実現力」は決定的に重要なんです。
極端な話、アイデアを出すだけならば誰でもできます。しかし「ピントの合ったアイデア」を出せる人は少ないですし、「ピントの合ったアイデアを具体化できる人」はもっと少ない。しかし、そこまでやってはじめて、「優れたアイデアを出した」とうことになるんです。
だからこそ、そのような人に育てることができれば、会社として貴重な戦力になります。B君はその期待に応えてくれたひとりですね。
――ところで、B君が「的外れなアイデア」を出し続けている間は、何かアドバイスをしたんですか?
小西 いえ。ただ「それで本当に生産性が上がるのか?」と質問を繰り返しただけです。そして新しいアイデアが出てくるのをじーっと待つんです。
実はね、「1枚のシートから型取りできる個数を増やせば生産性が上がる」くらいのこと、私もはじめからわかっているわけですよ。「こうすればいいじゃないか」と喉まで出かかった。それでもこらえました。私が解答を示してはいけない。自分で考えさせなければ成長はないんです。
――それが、「待つ」ということなんですね。しかし、現場がアップアップのなか2週間待つというのは、じれったいですよね。どうして、待てたんですか?
小西 それは、B君を信じているからですよ。どれだけ提案を突き返されても挫けず、私がOKを出すまで提案し続けることができる。そして提案を続けているうちに、確実に正解を導き出す発想力もある。だから待てるんです。
――なるほど。Bさんの仕事に向き合う姿勢を信じられた、ということですか?
小西 そう言ってもいいかもしれないですね。それに、B君を待っている間の2週間の損失なんて、B君が成長して会社を引っ張る存在になってもたらしてくれる利益を考えれば、微々たるものです。「長所を刺激しながら、ひたすら待つ」。待つのは難しいものですが、そのぶん、成長が見込める。だから待つんです。