春闘の賃上げ率の大部分は、(前述のようにその構成比は減りつつあるとはいえ)大企業労働者中心の定期昇給であり、ベースアップと異なり労働者全体の賃金上昇率とはかけ離れている。経済団体を通じて大企業に働きかけるのは、政治的には支持を得やすい手法だが、市場の需給で決まる以上の賃上げ目標を政府が企業に求めることは、本来の労働市場改革の方向に反するものとなる。

定年制廃止のためにも
定期昇給の抑制は必須

 急速に進行する労働力の高齢化の下で、相対的に過剰となる高年齢者に偏重した定期昇給の仕組みの矛盾は高まっている。それは貴重な高年齢労働者の雇用コストを生産性以上に引き上げることで、企業にとってその有効な活用を阻害する大きな要因となり、高年齢労働者の雇用を不安定にさせる。

 大企業で普遍的な、60歳になると画一的に解雇される定年制は、既に多くの先進国では「年齢による差別」として禁止されている。しかし現実には、年齢に比例して高まる日本の賃金慣行の下では、それにどこかで終止符を打つ定年制が不可避となる。

 このため、政府が打ち出した苦肉の策が、定年退職後の65歳までの再雇用の義務付けである。しかし、世界でもトップの平均寿命の日本では、年金の支給開始年齢を、現行の65歳から欧米の67~68歳水準よりも引き上げて、70歳まで働くことを標準モデルとする必要がある。その際に、再び企業に70歳までの雇用保障を義務付けるのだろうか。

 すでに定年の前後で、同一の業務内容にもかかわらず再雇用後に賃金水準を大幅に引き下げられたトラック運転手が、これを労働契約法に定める「働き方の違いのみによる賃金格差」として訴えたことを支持した判決も出ている。今国会で成立が見込まれる「働き方改革推進法」でも、有期と無期の雇用契約の間で合理性のない処遇の格差を禁じている。 

 こうしたなかで、高年齢者がその能力と意欲に応じて70歳前後まで働けるような仕組みが必要であるが、そのための基本となることが、年功賃金を構成する定期昇給の抑制であり、その逆ではない。