氷はなぜ滑るのか。3つの説

 さて本題の「滑る」ナゾです。子どもの頃、よく本に書いてあったのは「スケート靴の秘密」でした。

 なぜスケートではよく滑るのか?それはスケート靴の「刃」に秘密がありました。極めて狭い場所に全体重がのり、氷には高い圧力がかかります。それによって氷の融点が下がって一部だけ水に変わり(*7) 、その水の膜のために滑るというものでした。教科書にもそう書いてあります。

 でもそれはウソでした。それくらいの圧力では氷の融点に大差はなく、かつ、それではふつうの靴のときになぜ滑るのかが説明つきません。1900年前後にジョリーらが唱えたこの「圧力融解説 」はまったくもってダメでした。

 2番目の説は、1939年のもの。「摩擦熱説」です。滑り台でお尻が熱くなるように、氷だって擦れば熱を持って融けてすべる、という訳です。

 しかしこれも、摩擦を減らすとより滑るのか滑らないのかが怪しい感じです。スキー板にワックス塗って摩擦を減らすと、減速する!?

 3番目の説は、その源を今から約160年前のファラデーの実験に持つ 「表面融解説」でした。

氷の表面は、常に濡れている!

 電磁気学の祖 ファラデーはある日、面白いことに気がつきました。それは、氷を2つ接触させるとくっついてしまう、ということでした。ファラデーはそのことから、「氷の表面は氷点下でも常に溶けて濡れている」と考えました。

 氷点下の氷が2つ接触すると、接触面は「表面」ではなくなってしまうので表面の水同士が混ざり合って、凍ってしまいます。だからくっついてしまうのです。彼は1842年に、氷点下の氷の表面に液体の薄い層があることを実験で確かめました。

 でも実際にはその層(*8)は厚さ数ナノメートル(1nmは100万分の1mm)しかなく、その本当の様子や発生メカニズムはわからないままでした。

 1987年以降、さまざまな観察手段(レーザー共焦点微分干渉顕微鏡など)やコンピュータシミュレーションの活用によって、その正体が見極められつつあります。

 でもまだハッキリ「なぜ氷は滑るのか」には答えられていません。新しい観測手法の開発とともに、それまでの説がどんどん書き替えられている状態だからです。

 はやくスッキリしたいもの。研究者のみなさん、頑張ってください!

*7 H2Oは、体積が減ると液体になる!
*8 疑似液体層(quasi-liquid layer: QLL) と呼ばれる。