実は、盛田さんの英語の発音はお世辞にも上手とはいえなかった。ただ、自分の言葉で具体的にストーリーを説明し、メッセージを伝えようとする態度が聴衆に響いたのだと思う。

 後年知ったのだが、盛田さんには専任のスピーチライターとスピーチのトレーナーがいたそうだ。本人の努力に加えてプロの指導も必要なのだ。

 そもそも米国では、小学校のころから人前で話すことが重要視され、英語(国語)の教育に多くの時間を割いている。自分の考えがしっかり表現できない人は、社会に出てから相手にしてもらえないからだ。

 日本にも、トーストマスターズ・クラブ(Toastmasters Club)という「話し方」と「スピーチ」のスキル向上のための親睦クラブがある。日本を含めて世界142カ国で活動している。

 私も、東京在住のときに参加していたが、その経験はその後の米国での活動に役に立った。各支部には、活動内容やスピーチの評価の仕方などが細かく記された教則本が用意されており、リーダーはクラブの訓練を受けている。講演形式のスピーチから会議での議論、テーブルスピーチまでさまざまな状況を想定したスピーチを参加者が行い、それを参加者同士で評価し合う。

 この活動を通じて大切だと気付かされたのは、ロジックとストーリーだ。

 もともと私は技術者だったので、研究室での発表や学会でのロジック的な話し方には慣れていたが、相手の心に刺さるようなストーリー性のある話し方には訓練が必要だった。

 ボストン・コンサルティング・グループでコンサルタントをしていたときには、世界中の経営トップにプレゼンテーションを行っていた。そこで西洋のエグゼクティブをうならせるストーリー作りを、西洋人のコンサルタントが鍛えてくれた。

 これは貴重な経験だった。当時東京オフィスの同僚だったウィリアム・ハガティー氏もその一人だ。

 今では駐日米国大使の彼からは、当時「Why(なぜ)」「How(どのように)」と繰り返し問われた。「米国人には理解できない『場』や『空気』がある」と説明しても、理解されにくかった。

 日本では、単語を口にすれば相手も何となく分かってくれるが、米国人は単語をつなぐロジックを説明しないと納得してくれないことがよく分かった。

 そのため、例えば「オープンイノベーション」のような曖昧な言葉はあまり使わない。英語では「わが社は他企業との共同開発を進めている」などと具体的に表現しないと、理解されないだろう。