無線LANが使えない場所では
ロボットが使えなかった

 原発事故の時に話題となったのが、無線LANが使えない、ということでした。日本のようにネットワーク環境がいいところで動かしているロボットは、無線LANなどのネットワーク環境を使うことが前提となっており、広範囲にわたる場所で有線のケーブルをつけたままからまずに使用できるようにすることが考えられていなかったのです。

 原発事故の時には、無線LAN環境が失われる、原子炉の中まで電波が届かない、放射能が邪魔をするなど、日本のロボットを動かす環境は完全に失われていました。

そして地震発生から約3ヵ月後の2011年6月に、千葉工業大学のロボット「Quince」が投入されました。投入までの約3ヵ月間は、放射能がある中で壊れないようにする、あるいは、巻き取り器を持った長い有線ケーブルの追加など、対環境性能を向上させることに使われていたのです。ただ、この「Quince」が、他のロボットが上れなかった2階にも上ることができたのは、一つの成果でした。

 このような経験から、現在のロボットが目指す方向性の一つが、確実に動く「タフさ」になったのです。現在、災害時にも使えるロボットを開発するために「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」で行われているプロジェクトが「タフ・ロボティクス・チャレンジ」です。2014年から5年間、35億円相当の予算を取って、東北大学の田所諭教授が中心となって行っています。

 また、ヒューマノイド活用の可能性も再び議論されることとなりました。原発に限らず、あらゆる施設は人間が働くことを前提に作られています。そういった意味で、ヒューマノイドであれば人間と同じように働けるのではないかと考えられるからです。

中嶋秀朗(なかじま しゅうろう)
 日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授。1973年生まれ。東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻修了。2007年より千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科准教授(2013-14年、カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員)を経て現職。専門は知能機械学・機械システム(ロボティクス、メカトロニクス)、知能ロボティクス(知能ロボット、応用情報技術論)。2016年、スイスで第1回が行われた義手、義足などを使ったオリンピックである「サイバスロン2016」に「パワード車いす部門(Powered wheelchair)」で出場、世界4位。電気学会より第73回電気学術振興賞進歩賞(2017年)、在日ドイツ商工会議所よりGerman Innovation Award - Gottfried Wagener Prize(2017年)共著に『はじめてのメカトロニクス実践設計』(講談社)がある。