“絶好調の投資信託”は買い?

 「損を避けたい」というこの感情が心理的な罠となる例は、投資の世界で毎日のように起こっています。

 保有している投資信託Aの価格が上がり続けており、同じく保有している投資信託Bの価格がじりじり下がっているとします。多くの人は直感的に、投資信託Aを買い増して投資信託Bを手放したくなります。「投資信託Aの価格はまだ上がるかもしれない」「このまま投資信託Bを持ち続けて本当にいいのだろうか。損がこれ以上膨らむのは嫌だ」と思うからです。

 「投資信託」が、「肉」や「野菜」だったらどうでしょう?

 スーパーに行って肉の値段がいつもより高ければ「今日は魚にしよう」と考えるかもしれませんし、タマネギが安ければ「多めに買っておこう」と思う人もいるでしょう。

「損をしたくない」という感情が、投資のセオリーに反する行動を促してしまう…

 値上がりした資産の一部を売り、値下がりした資産を追加で買うのが、金融のプロです。しかし多くの個人投資家は、心理的な罠にはまり、株価が上がる局面では強気になって多く投資し、逆に株価が下がると「このまま保有していいのだろうか」と不安になって売却してしまいがちです。

 冷静になって考えてみると、これでは高く買って、安く売ることになっているのですが、現実には多くの個人投資家がこのような行動パターンを取ってしまいます。スーパーの肉であれば正しい判断ができるのに、いざ金融商品となると心理的な罠にはまってしまう人が多いのです。

感情に左右されないことが大切

 アメリカでは、企業年金制度(401(k))に「加入自動化(automatic enrollment)」が取り入れられるようになりました。従業員が「脱退する」と意志表示をしない限り、企業年金に自動的に加入する仕組みによって、多くの人が知らず知らずのうちに「長期・積立・分散」による資産運用を行えるようになりました。

 この「加入自動化」を、学術的な立場から推進したのが、昨2017年に行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授です。この結果、16年時点で、「加入自動化」による企業年金(401(k))の開設は、全体の6割近くを占めるまでになりました。

 日本にも、心理的な罠にはまらずに資産運用を「続ける」ためのシステムはいくつかあります。たとえば「つみたてNISA」や「iDeCo」、それにロボアドバイザー「WealthNavi」で提供している「自動積立」のようなサービスです。いずれも、相場がよくても悪くても、感情に左右されずに淡々と、投資にあてるお金(元本)を積み上げられる仕組みです。

 「長期・積立・分散」の資産運用は、無理のない範囲で早く始めて、「続ける」ことが大切です。資産運用を「続ける」には、心理的な罠にはまらないよう気を付ける必要があります。このことを意識しておけば、相場がよいときも悪いときも「正しい行動」が取れるはずです。

(御礼)
 本稿で紹介した設例については、信州大学経営大学院客員教授の上地明徳先生より多大なアドバイスをいただきました。この場をお借りしてお礼申し上げます。