「本来、自立更生費は認められるべきものなんです。しかし、最初からその検討をせず、安易に全額返還請求してしまう例が多いです。もちろん違法ですし、『違法』とした判決も多数出ています」(小久保さん)

 実際には「すべてか無か」というわけではない。たとえば、交通事故に遭って100万円の義援金を受け取ったとき、生活再建に実際に必要だった費用は98万円だったことが後で判明すれば、残る2万円が収入認定の対象となる。本年、生活保護法が改正されれば、この2万円は非免責債権となる可能性がある。また、保護費から強制的に徴収される可能性もある。そういう運用であれば、「まあ、仕方がないかも」と言えるかもしれない。

 しかし忘れてはならないのは、本連載のタイトルでもある「生活保護のリアル」だ。生活保護で暮らす200万人以上の人々は、日常の情報源が地上波テレビだけであったり、充分な教育を受けていなかったり、文字の読み書きや基本的なコミュニケーションに困難を抱えていたりすることが珍しくない。友人や知人の中に都合よく、小久保さんのように生活保護を専門の1つとしている弁護士や、私のように生活保護に異様に詳しい物書きがいるわけでもない。

「福祉事務所に『全額を返還してください』と言われたら、多くの方は『おかしい』と思ったり声を上げたりせずに、黙って全額を返すでしょうね」(小久保さん)

 生活保護で暮らす人々と行政の間には、知識・能力・立場とも大きな差がある。行政に悪意がなくても、結果として「無知に付け入る」ということになりかねない。本来なら、知ったり調べたりすることに関するハンデに対する配慮は、行政側に求められるはずだ。

生活保護から始まりかねない
社会の「モラルハザード」

 小久保さんは、さらに懸念する。

「非免責債権は、本来、限定的であるべきものです。たとえば破産法では、悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権が非免責債権とされています。生活保護法の78条が適用される不正受給の事例は、 これに近く、本人に落ち度がある場合なので、同じ扱いとなってもやむを得ない面があります」(小久保さん)