◇まずは「何がしたいのか」を考える

 お金や健康の心配は際限なく膨らんでいく。しかし、竹中氏と出口氏ともに、「老後に備えてどれくらいお金を用意しておけばいいのか」よりも、「自分が何をしたいか」を考えるほうが大事だという。やりたいことが決まれば、有限のお金と、有限の命の使い方を前向きに考えられるからだ。

 これを促すために、アメリカの大学教育では、次の3つが重要視されている。「クリティカル・シンキング」「クリエイティブ・シンキング」「エフェクティブ・コミュニケーション」である。クリティカル・シンキングは、物事を批判的な側面からも分析し、本質に迫ることだ。クリエイティブ・シンキングは、自由な発想で新たなものを創造することである。そして、エフェクティブ・コミュニケーションは、相手との対話により深い理解を促すと同時に、自分自身へ問いかけるという意味も含んでいる。自分と向き合い、どのように生きたいのかを先に決めてからお金や健康について考えるほうが健全だといえる。
 
【必読ポイント!】
◆人生100年時代の働き方
◇労働の流動化

 AIやIT化が進むと自動化される職業が増えるため、労働力が余るという意見がある。対して、竹中氏はAIやIT化を前向きに受け止めるべきだと主張している。18世紀の産業革命の際、「仕事を奪われるのではないか」と恐れた労働者は、機械を破壊する運動を起こした。しかし、結果、産業革命によって労働の効率化や生産性の向上、労働者の生活水準の向上がもたらされた。

 機械化によって仕事を失った職人たちが、新しいニーズに応えるような産業を生み出していったからである。そこで鍵となるのが、新しい産業を試せる場や、仕事にあぶれてしまった人が新しい仕事に移行できる仕組み、労働の流動化だ。

 人材育成という観点では、リカレント教育がますます重要な役割を果たす。出口氏は、労働の流動化の成功例としてフィンランドを取り上げている。1992年、フィンランドは破産の危機に陥っていた。当時、フィンランドは、旧ソ連との貿易に大きく依存しており、ソ連の崩壊で対ソ連の輸出が減ってしまったためだ。

 そこで、当時フィンランドの史上最年少で首相に就任したエスコ・アホ氏は、失業者にお金を支給するのではなく、全員に無料でIT関係の職業訓練を受講させた。これからはパソコンを使う能力が仕事に欠かせないと考えたためだ。その結果、2000年ごろには、フィンランドは国際競争力ナンバーワンの国になり、ノキアなどの先端企業を生み出すことに成功した。

◇対応力、レジリエンスを身につける

 環境が大きく変化している現代において必要なのは、強さや賢さではなく、「対応力」であると出口氏はいう。MITでも「強さより復元力(レジリエンス)が大事」といわれている。対応力は、環境の変化に条件反射する力ではなく、物事の原点に立ち戻り根底から「考える力」を基本とする。世界がどう変わるのか、社会がどう変わるのか、未来を予測したところで誰にも分からない。「今世界で何が起きているのか」を把握することが大事だ。

 では、考える力をつけるためにはどうすればいいのか。それは、日常で「なぜ、なぜ、なぜ」と問い続けることだ。問いを繰り返して、自分で腹落ちするまで考える癖をつける。ウエイトトレーニングと同じで、考える力も、一定の負荷をかけなければ身につかない。