日銀の緩和マネーが
実物投資に回っていないこと裏付け

 日銀による超緩和政策は、企業が積極的に低金利を利用することで国内向けの投資が増え、それが生産性の向上と、資金需要の増加によって国の中のおカネの巡りが良くなることが大きな目的の一つだ。

 だが、企業の投資資金が海外の企業買収に向かっていることは、実物投資や働く人への還元よりも、金融投資に傾倒しているように見える。

 時間を経て、こうした投資の範囲が広がっていけば、いずれ国内の設備投資や資金需要も回復し、日銀の緩和政策も本来の効果がようやく発揮されるかもしれない。

 言い換えると、その段階に至ってようやく、雇用者への所得の還元が積極化する程度なのかもしれない。

市場が「逆回転」すれば
ますます遠のく働き手への還元

 ただ、企業によるM&A投資の累積は、株価など資産価格の変動によって、財務体質が突然、悪化することもあり、「逆回転」がかかればその後の展開は早いことには要注意だ。

「日銀がここまで低金利でお膳立てしたにもかかわらず、企業は何もせずにキャッシュばかり溜めている」という批判はよく聞くが、低金利を利用する形でのリスクテイクが起こっているところでは確かに起こっているのである。

 現在、多くの人が関心を持っているのは、景気拡大がそろそろ失速するのではということや、先月に起きた世界同時株安のような株式市場の急変がまたいつ起きるのかどうか、だろう。

 株価の下落が理由は何であれ、長引き、それが景気後退を招いてしまうと、企業買収を進めてきた企業は買収先の「のれん代」を減損処理する必要性に突如、直面する。

 となれば、企業は雇用者への所得還元どころではなく、また保守的な経営に戻ってしまうだろう。

 日本企業の利益率は向上し、人件費圧縮に必要以上に頼らずとも利益を確保できる体質になったのは明らかに良い変化だ。だが実物投資と異なり、近年見るような金融投資としての拡大は、市場価格の動向によって逆回転がかかり始めたらその調整スピードが過去以上に早くなってしまうリスクがあることに要注意だ。

 そして仮に市場の安定、景気拡大が続いたとしても、多くの人には「実感のない好況」が続く。

(三井住友銀行 チーフ・エコノミスト 西岡純子)