Kindle Unlimited騒動でみえた
既存の出版ビジネスモデルの課題

——話が戻りますが、「コミックDAYS」の企画が始動したのは2017年1月。その直前の2016年10月にはKindle Unlimitedの配信停止騒動(※)があり、講談社はAmazonへの抗議声明を出しました。あの一件はどう受け止めていますか。

 そもそも、なぜ配信停止になってしまったかという原点に戻ると、「まだまだ漫画は売れているし読まれているから」だったんですよね。

 少し話が逸れますが、僕は「ユーザー(読者)と作り手側の対称性が保持されているか」ということをすごく考えています。

 ユーザーにとって究極に便利なサービスとは、「すべて無料」で楽しめるものです。ただ、それが成立してしまうと作り手側が死んでしまう。そして作り手側が死んでしまうと、長い目で見たら作品が生まれなくなり、ユーザーにとっても不利になる。だからお互いがちゃんと対称性を取れている状態を維持しなくてはいけない。

 ユーザーにとって不便ではなく、気持ちよく楽しめる。一方で作り手側もしっかりお金を稼いで、継続的な活動ができる。この両方のバランスを取ることができれば良いと思っています。

 音楽業界はApple MusicやSpotifyなど、先にサブスクリプションサービス(定額制サービス)の波がきたということもあって、そのバランスが業界全体で取れつつあります。あと、そもそも音楽と映画には、デジタルで得られる体験より上位の体験があるんですよね。

(※)Amazonが運営する月額980円の電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited」で書籍が「一方的に配信停止にされた」として、講談社などの出版社や作者からAmazonに対して抗議や善処を求める訴えが相次いだ。想定以上の利用があり、Amazon側が出版社に配分する負担に耐えきれなくなり、人気作品をラインナップから外したとみられている。

——上位の体験とは?

 音楽だとライブに行くこと、映画だと映画館で観ることです。デジタルでは代替できないものですね。

 例えば、音楽を無料に近い状態で多くの人に聴かれたとしても、その中でファンになってくれた人がライブに来たりファンクラブに入ったりしてくれる。そこで対価が支払われて、アーティストにしっかり還元されるという形ができています。

 映画もそうです。映画館に行くということは、Netflixでは代替できない経験で、映画館にも3Dや4DXみたいなプラスアルファの価値が付いてきている。音楽、映画、どちらも上位の価値というものが担保されていて、そこでしっかりクリエイターへの利益還元ができる。

 一方で漫画の場合は、「紙で読む」ことが一つの上位体験としてありますが、映画と音楽に比べると少し弱いんですよね。だから、破格の定額制サービスで全ての出版社の漫画が読めるようになってしまうと、対称性が取れないんです。

 対称性が取れないと事業を持続できないので、音楽や映画とはまた違ったモデルが成立しないといけない。けれどその形がまだ見えていなくて、バランスが取れずガタガタしている。漫画を描く側も、読む側も、出版社側である僕らも、みんながそれに対して不満を持っているのだと思います。Kindle Unlimitedの一件はその問題を浮き彫りにしたと思っています。

 様々な出自のプレーヤーが揃っている中で、どんなビジネスモデルでやっていくのがベストなのか。それを、僕は出版社に属する立場として考えないといけないと思っています。

——海賊版サイト問題についての議論が進む中で、講談社や集英社、小学館など日本の出版社が手を組んでサービスを作るべきではという指摘もあります。

 これはあくまで僕個人の意見ですが、海賊版サイトには厳正に対処しつつ、一方で作家への還元が担保される形になるのであれば、出版社横断のサービスができるのはいいことだと思います。