陥りがちな思考の罠に迫る「カイゼン!思考力」。今回は、「モラルハザード」を取り上げる。

――問題です

 以下のAさんの問題は何か。

 Aさんは中学校の新任教師。中高生時代は、「カンニングなんてしても結局は自分のためにならない。それは皆もわかるはずだ。したがって、この学校では試験監督は置かない。皆さんの良心に任せる」というポリシーの中高一貫校に通っていた。実際に同校ではカンニングをする学生はほぼ皆無であった。

 そうした母校の校風を理想とするAさんは、赴任した中学でも同じ方針をとろうと考え、1学期の中間試験ではあえて試験監督をしなかった。その結果――本来、Aさんが試験監督をする予定だったクラスで、似たような答案が頻出し、平均点が高くなるという現象が起きてしまった。明らかにカンニングが行われた形跡である。

 Aさんは、学年主任に厳しく問い詰められた。
「誰も見ていなかったら悪さをするに決まっているじゃないか」
「いや、僕の母校では…」
「君の母校は特別なんだよ。世の中が皆そうだとは思わない方がいい。これからはちゃんと試験の際には見回るようにしてくれ」
「……」