逆に、家という資産は、生活スペースの確保という大切な役割がありますが、お金にはなかなか替えられません。いますぐお金が必要だというときに、家を売ってお金を用意しようとする人はまずいません。買い手がつくまでにはしばらく時間がかかるでしょうし、いろいろな手続きもしなければならないからです。このような「換金のしやすさ」のことを流動性といいます。流動性の高さは現金の最大の強みであり、「いつでもすぐに使えること」こそが現金のすぐれた機能なのです(一方、家という資産の流動性はそこまで高くはありません)。

資産形成エンジンを構築し直していく際には、それぞれの資産が持っている特性に応じた使い方をしなければなりません。
資産の適材適所を考えるときに、私たち日本人が最もミスを犯しがちなのが預金と保険です。ひとまずは預金にフォーカスしていくことにしましょう。

生活費6ヵ月以上の預金は「貯めすぎ」である

以前の連載記事でも触れたとおり、私たち日本人は世界でも屈指の預金好きです。金融資産の51.5%という大きな割合が現預金で占められているのは、先進国では日本くらいでしょう。日本人のコツコツ貯める粘り強さは、世界に誇れるものだと思います。

※参考記事
「貯金オンリー」は世界の非常識!?知識のある家計は7年半で2000万円を倍増させる

ただし、ゼロ金利の時代が長く続いている日本では、預金には「お金を生み出す機能」がほとんどありません。つまり、資産形成エンジンとしては役に立たないというのが実情なのです。その結果、コツコツと預金をする日本人の「粘り強さ」が、かえってアダになってしまっている側面もあるのです。

預金の最大の機能は、現金とほぼ同等の流動性、つまり、必要なときにいつでも支払いに使えることです。銀行のATMに行けば、すぐに現金として引き出せますし、スマートフォンを操作するだけで、ほかの人にお金を送ったりすることもできます。

この本来の機能に立ち戻った場合、全資産の50%以上を預金で持っておくのは、どう考えても賢明ではありません。預金額は「現金アクセスが必要になりそうな程度だけ」に抑えておき、それ以外はほかへ回すのが合理的でしょう。

「現金アクセスが必要になりそうな程度」を考えるときに、私が実際のマネーアドバイスで目安としてお伝えしているのが、「基本生活費の6ヵ月分」という数字です。

基本生活費とは、最低限の生活をしていくのに必要なコストのことで、レジャーや趣味などのいざというときにカットできる分は除きます。「急に働けなくなった」「車が故障して修理費がかかった」「屋根が壊れて対処が必要になった」など、なんらかの不測の事態が起きたときでも、基本生活費の6ヵ月分があればまず慌てずに済みます。預金はあくまでも「緊急時のためのプール金」なのです。

言い換えれば、6ヵ月分を上回った預金額がある家計は、端的に“貯めすぎ”です。預金が持っている本来の機能を果たせずに遊んでいるお金があるということですね。