この「ちょっぴり損したかも……」という気持ちは、決して異常ではありません。この場合、お金を置く場所を変えておきさえすれば、より多くの利益を上げることができたのは事実だからです。最善の意思決定をしないことによって、得られたはずの利益チャンスを逃すことを機会損失といいます。要するに「儲けそこない」ですね。

もちろん、何が最善の意思決定なのかは、そのときそのときで、本人が主観的に判断するほかありません。

「いや、10万円を一度も減らすことなく維持するのが、私にとって最善だったんです!」

そう固く信じられるのであれば、それでいいのです。ただ、「何度か前年割れをしても、最終的にはじめの元本より増えるなら、ちょっとくらいはリスクを取ってもよかったかな……」という迷いや後悔があるのなら、それは「儲けそこない」という機会損失だったのかもしれません。

あなたの預金はいまも減り続けている

損得の判断というのは、価値基準をどこに置いているかに左右されます。基準を「元本」ではなく、「得られたはずの利益」にしてみれば、「元本は死守したけど、けっこう損をした」という考え方も十分可能だということにお気づきいただけるかと思います。

しかし、日本人の元本信仰はほんとうに根強いですから、ここまでの話だけでは「何が損なのか、サッパリわからない!」という方もまだいらっしゃると思います。そういう人はここで無理に既存の価値観を破壊する必要はありません。

「『元本が大事』というのは、一定の価値基準でしか通用しないらしいぞ……」「見方を変えると、『預金のほうが損』という理屈が成立するみたいだな……」ということを、頭の片隅に置きながら読み進めてください。

さて、預金の“もったいない”は、「こうしておけば損をしなかったのに……」という後悔の心理がからんだ問題でしたが、もう一つ触れておきたいのが、預金が“減っていく”という、より切実で現実的な問題です。しかもこれは、今後はとくに日本人が懸念しなければならないポイントになると予想されます。