天ぷらの名店、銀座「天一」で修業した本格の天ぷらコースを心ゆくまで味わって、締めには手打ち蕎麦の群雄「本陣房」で学んだ江戸風情の二八蕎麦。こんな贅沢な店に行かない手はないだろう。
揚げたての天ぷらをカウンターで堪能
それが蕎麦屋で味わえるから人が集まる
二子玉川駅から、少し離れた住宅街の中にある「宇奈根山中」。歩いて行くには少し距離があるため、客の多くはタクシーで「山中」に急ぐ。タクシーに乗ってまで、と驚くかもしれないが、この店の天ぷらと手打ち蕎麦にはその価値があるようだ。
店は住宅街の中に溶け込むようにあって、玄関に暖簾がないから、客は通り過ぎてしまうこともある。建物自体はモダンなデザイン様式で、全体が漆黒の塗装。知らない人は、およそ、蕎麦屋だとは思わないだろう。
店内の天井はロッジのような広々とした空間造作にしてあって、初めて訪問する客は、まるで別荘にでも来たように感じることだろう。
山中さんが天ぷらと手打ち蕎麦の店、「宇奈根山中」を興したのは2004年。生まれ育った土地に自宅と蕎麦屋の店を隣接して建てた。
「最初に開店したときには、近所の方が全く近寄ってこなかった。きっと、蕎麦屋にも天ぷら屋にも見えなかったのでしょう」と亭主の山中宏介さんが、トレードマークの顎鬚をつまみながら笑って言う。
山中さんの天ぷらは、19歳から9年間、あの名店の銀座「天一」で修業して身につけたものだから本格的なものだ。
客の目の前で揚げた天ぷらを、そのまま食べてもらうために、カウンターは広めに取って、ゆったりしたものにした。
天ぷらで客をもてなすには、「見計らい」といって、客の様子をつかみながら、天ぷら種を出す術が必要なのだという。だから、客の人数には気を遣う。小上がりも最大で10人の宴会を催すことができるが、そうなったらほぼ貸切にしてしまう。
自分の天ぷらの揚げたてを味わってもらうためには、そのくらいの人数が限度なのだという。この丁寧な客扱いなら、お客を連れて接待に使いたくなる。