天ぷらの名店、銀座「天一」で修業した本格の天ぷらコースを心ゆくまで味わって、締めには手打ち蕎麦の群雄「本陣房」で学んだ江戸風情の二八蕎麦。こんな贅沢な店に行かない手はないだろう。

揚げたての天ぷらをカウンターで堪能
それが蕎麦屋で味わえるから人が集まる

 二子玉川駅から、少し離れた住宅街の中にある「宇奈根山中」。歩いて行くには少し距離があるため、客の多くはタクシーで「山中」に急ぐ。タクシーに乗ってまで、と驚くかもしれないが、この店の天ぷらと手打ち蕎麦にはその価値があるようだ。

2004年に天ぷらと江戸蕎麦の店として誕生した「宇奈根山中」。モダンなギャラリー風の造作で、蕎麦屋のイメージからはほど遠い。開店から8年を経た今でも、新しさを感じさせるコンセプトの店だ。

 店は住宅街の中に溶け込むようにあって、玄関に暖簾がないから、客は通り過ぎてしまうこともある。建物自体はモダンなデザイン様式で、全体が漆黒の塗装。知らない人は、およそ、蕎麦屋だとは思わないだろう。

 店内の天井はロッジのような広々とした空間造作にしてあって、初めて訪問する客は、まるで別荘にでも来たように感じることだろう。

 山中さんが天ぷらと手打ち蕎麦の店、「宇奈根山中」を興したのは2004年。生まれ育った土地に自宅と蕎麦屋の店を隣接して建てた。

「最初に開店したときには、近所の方が全く近寄ってこなかった。きっと、蕎麦屋にも天ぷら屋にも見えなかったのでしょう」と亭主の山中宏介さんが、トレードマークの顎鬚をつまみながら笑って言う。

熱々の天ぷらを味わってもらうよう、ゆったりとしたカウンターが置かれている。小上がりでの会食用に4人席が並ぶ。大人数なら、テーブルを寄せて宴会席を作ってくれる。

 山中さんの天ぷらは、19歳から9年間、あの名店の銀座「天一」で修業して身につけたものだから本格的なものだ。

 客の目の前で揚げた天ぷらを、そのまま食べてもらうために、カウンターは広めに取って、ゆったりしたものにした。

 天ぷらで客をもてなすには、「見計らい」といって、客の様子をつかみながら、天ぷら種を出す術が必要なのだという。だから、客の人数には気を遣う。小上がりも最大で10人の宴会を催すことができるが、そうなったらほぼ貸切にしてしまう。

 自分の天ぷらの揚げたてを味わってもらうためには、そのくらいの人数が限度なのだという。この丁寧な客扱いなら、お客を連れて接待に使いたくなる。