死刑を廃止するための
説得力ある理由はない?

 なぜヨーロッパ諸国を筆頭に、死刑制度を廃止する国が出ているのだろうか。森氏が言うには、政治的な要因が最も大きな理由だという。

「たとえば、フランスでは、1981年の大統領選に出馬したミッテランが公約に死刑制度廃止を掲げて当選。世論の6割が死刑制度賛成だったにもかかわらず、即死刑が廃止されたという背景があります。イギリスの場合でも、当時の世論の85%が死刑制度を支持していましたが、重大な冤罪事件をきっかけに60年代末、政府は廃止に踏み切ったのです」

 今ではEUに加盟する条件としても、死刑制度廃止が定められている。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」の調査では、1976年から2016年までの間に、計94ヵ国が死刑を廃止した。

 だが不思議なことに、政治的な理由を除けば、なぜ死刑を廃止したのか、なぜ廃止するべきなのかについて、死刑廃止国からも、説得力のある理由は聞かれないという。

「死刑制度に否定的な人がよく言うのは、『人間なら誰しもが持っている生命権を、国家権力が犯してはいけない』というかなり抽象的な議論。つまり、国家が人の命を奪ってはいけないという理屈です。しかし、それを言うのなら被害者の生命権も当然視野に入れなくてはいけないはずですが、なぜか被告人側のことしか念頭に置いていません」

 人権のほかにも、冤罪の可能性や、憲法36条の禁ずる「残虐な刑罰」に死刑制度も該当するのではないか、という反対意見もある。だが、冤罪は死刑以外の刑罰についても、絶対許されないこと。死刑が違憲であるかどうかについては、過去の最高裁で既に、合憲の判決が出ている。どちらも死刑制度廃止の論拠としては弱い。

 また、死刑を廃止した国であっても、テロが起きた場合、被害を拡大しないように警察が犯人を射殺するケースもあるが、なぜこれは許されているのか。人権を持ち出しても、到底説明できない問題だ。