【仮説(3)】
日本人の横並び意識が不毛な争いを生む

河野 ちなみに、先進国では格差は拡大していますが、グローバルではむしろ格差は縮小しています。

 結局、生産拠点の新興国への移転でいえば、この30年で一番メリットを受けた国は中国です。30年間で14億人の人口が中国が世界経済に組み込まれた。その過程で、農村にいた人々が豊かな都市に吸収され、中国では所得の格差が縮小してきている。

 今の先進国と新興国の違いって19世紀以降の話なんですね。19世紀に先進国が工業化で発展し始めることで、アジアとの所得格差が生まれた。これが「大いなる分岐」です。90年代くらいから新興国への生産拠点の移転で新興国が豊かになり始めてきたので、「大いなる収斂」が始まりました。

 19世紀以前には国の間の所得格差がないので、ある人が豊かであるかどうかは、「自国におけるどこの階層に属するか」で規定されていた。しかし、この200年くらいは「先進国の出身であるか、途上国の出身であるか」で規定された。

 そして、この調子で新興国が豊かになってくると19世紀以前と同様に、ある人が豊かであるかどうかは「先進国出身であるか、新興国出身であるか」ではなくて、「自国のどの階層に属しているか」によって決まる時代になる可能性があります。つまり、日本人は日本のどの階層に属しているかが決定的になるということです。

橋本 日本では、同じ階層の中で横並び意識が働き、不毛な競争が起きることになります。

 強調したいのが、アンダークラスの上の労働者階級が二つに分裂してきていること。労働者階級の中に比較的高賃金の層と低賃金の層がいる。互いに利害の異なる別々の集団になってきたという認識です。そして、アンダークラスは、人生の一時期だけではなく、恒常的にそこにとどまり続ける存在になっている。アンダークラスには子どもを生めない人も多いので、アンダークラスの子どもがアンダークラスになる構造が確立するのか……。上の階級にいる労働者階級や新中間階級の子どもがアンダークラスに転落し続けてこの規模が維持される可能性が高いと思います。

河野 働いている人が税金を払い、社会保険料を払うから社会保障制度が成り立ちます。しかし、経済の大きな変化に社会保障制度を始め国のシステムが対応できていません。そのことで、晩婚化や非婚が進み、少子高齢化が助長され、社会保険料や税金を払う人自体が減って、益々、社会制度の持続可能性が低下している。極めて危機的な状況です。

橋本 今の世代が低賃金で長時間働いて燃え尽きる。次の世代の労働力が出てこない。社会学のアプローチでいうと、「社会の再生産、労働力の再生産の危機」だと思いますね。