「まさかそれ(解任)を言われるとは、ということで『どうしてなんだ』と理由も聞かれました。選手たちとのコミュニケーションが足りない点や、少しでも日本代表が勝てるようにしたいという気持ちはお伝えしましたが、それでも『満足ではない。なぜこの時期に』とおっしゃっていました」

 ハリルホジッチ氏はメディアの報道に対して、常に神経を尖らせていたという。スポーツ紙などの報道を常に通訳にチェックさせ、実際に「解任」の二文字が報じられるたびに田嶋会長に確認を求めていた。実際、次戦の結果次第では解任やむなし、という事態に直面していた時期もある。

 例えばワールドカップ・アジア最終予選の初戦でUAE(アラブ首長国連邦)代表にまさかの逆転負けを喫し、その後も不安定な戦いを続けた2016年秋は常に「リーチ」がかかった状況だった。韓国代表になす術なく惨敗した、昨年末のEAFF E-1サッカー選手権後にも解任論が噴出した。

 それでも現実のものとなることなくワールドカップイヤーを迎え、最初の活動となるベルギー遠征も終えた直後だけに、ハリルホジッチ氏をして「なぜこの時期に」と言わしめたのだろう。ならば、前代未聞の「大なた」を振るわなければならないほど、代表チームは修復不能な状態に陥っていたのか。

「ハリル解任」につながった新体制人事

 代表監督および代表チームをサポートする役割を担う、JFAの技術委員会のトップとしてハリルジャパンを間近で見てきた西野新監督は「監督の要求は世界基準だった」と振り返る。

「ワールドカップで世界と戦うにはこういう戦い方をしなければいけないと、選手たち一人ひとりに高い基準の役割を強く要求していた。指導者としては当然のことですし、それに対して選手たちが応え、要求を形にしていくことでチーム力が向上していく。

 ただ、監督の意図と選手たちのやりたいことがあり、そこのギャップを合わせていかなければならない。日本人のDNAの中でやれる部分はもっとあるという、選手たちの気持ちは監督に伝えていましたが、そのあたりのギャップが埋められない。チームとしてバランスよく機能していたかと言えば、わずかな差があったのかなと」

 八百長疑惑の渦中にあったハビエル・アギーレ元監督が解任される非常事態の中、ハリルホジッチ前監督は2015年3月に就任した。当初から縦に速い攻撃を掲げ、日本人に欠けていた1対1の局面における強さや激しさを、フランス語で「決闘」を意味する『デュエル』を介して落とし込んだ。

 同時に選手たちに対して歯に衣着せぬ直言の数々を浴びせ、衝突することを厭わないほどのエキセントリックな、場合によっては独裁的と感じられる姿勢を貫いてきた。体脂肪率を12%以下に留めよと厳命するなど、ピッチを離れた部分でも厳しい目を光らせ続けた。

 代表チームに関するすべてを自分で管理したい、と望むほどの完璧主義者。厳格な性格ゆえに選手たちの間に不必要な軋轢や溝が生じ、時間の経過とともに修復不可能な状態に陥ったとする理由を聞くたびに疑問が募ってくる。ならば、間に入るべき技術委員会は何をしていたのか、と。