森 時彦(もり・ときひこ)神戸製鋼所を経てGEに入社し、日本GE役員などの要職を務める。その後、テラダイン日本法人代表取締役、リバーサイド・パートナーズ代表パートナーなどを歴任。現在はチェンジ・マネジメント・コンサルティング代表取締役として組織活性化やリーダー育成を支援するかたわら、執筆や講演等を通じてファシリテーションの普及に努めている。ビジネス・ブレークスルー大学客員教授、日本工業大学大学院客員教授、NPO法人日本ファシリテーション協会フェロー。近著に『ストーリーでわかるファシリテーター入門』がある。

 クライアントの方たちは、どのような目的でファシリテーション研修を依頼されているのですか?

黒田 ひとつには、社内会議のあり方を変えていきたいという考えがあるようです。資料を読み上げて報告するだけの旧来型の会議をやめて、参加者が積極的に意見を出し合い議論して、会議の生産性を上げていきたいと。社内にファシリテーションを専門に行うスタッフをおくケースは稀かもしれませんが、活発な議論ができるように会議の議長役を担う社員にはファシリテーションのスキルを身につけさせたいというニーズは高いですね。

 黒田さんの会社に研修を依頼する企業は、大企業が多いですよね?

黒田 そうですね、ほとんどが大企業です。

 私の場合、どちらかといえば中堅企業のお手伝いをすることが多いのですが、中堅企業では旧態依然としたトップダウン型の会議が多いという印象を持っています。つまり、上が「ああしろ、こうしろ」と指示して、下は「はい、わかりました」とその指示に従うだけの会議です。

黒田 研修を受けた大企業の方の中にも、「うちの会社はトップダウンなので、ファシリテーションを日ごろの会議に導入するのは難しそうです」とおっしゃる方はいます。10年ほど前に比べれば、だいぶ少なくはなりましたが。

 そういう方はたいてい「上司にもこの研修を受けてもらいたい」と言いませんか?

黒田 ええ、必ず(笑)。ご自身は研修を通じてファシリテーションの効果を実感でき、できれば自分の組織でも実践してみたいと思っていても、上長の理解が得られそうもない、とおっしゃいます。

 15年前に比べてファシリテーションという言葉は広く使われるようになっているし、そのスキルを身につけたいという声も多くなっている。ただ一方で、「正しく理解されて使われているか」という観点で言えば、まだまだというのが私の現状認識です。

 黒田さんの本のタイトルにある「ファシリテーター型リーダー」は、出版された時よりさらに求められる時代になってきたと思いますが、先は長いという感じがします。

ファシリテーター型リーダーが
求められる理由

 ダイバーシティという言葉に象徴されるように、近年企業内での価値観や働き方の多様化が進んでいます。また、企業が直面する課題は、さまざまな要素が絡み合い、特定の分野の専門家だけでは解決できないほど高度化・複雑化しています。

 社内の各部門やプロジェクトの責任者は、課題解決や目的達成のため、価値観の異なる人々や異なる専門性を有した人々の意見を聞き、行動を促していかなければなりません。そんなインタラクティブなリーダーシップを実現するのに役立つスキルが、ファシリテーションではないでしょうか。

黒田 おっしゃる通りだと思います。加えて言うならば、これからの時代はどんな企業も最先端のデジタルテクノロジーを事業に活用することが必須となりますが、テクノロジーについては上の方たちよりも若い世代の方が詳しかったりします。また、企業経営においてはカスタマーセントリック(顧客中心主義)の考え方は極めて重要ですが、顧客のことをもっともよくわかっているのは現場の人たちです。

 若い世代や現場の人たちの声を聞き、その感性や経験をマネジメントに活かすためにも、リーダーにファシリテーションは欠かせません。

 その一番重要な情報を持っている現場が、長い間上からの指示命令で動くことに慣れて単なる手足になってしまっている。自分たちの頭で考え上層部と議論して会社を良くしようという意欲が萎えてしまっているという感じがします。現場の活性化にはインタラクティブなファシリテーター型リーダーシップが欠かせません。

 ファシリテーター型リーダーは、オープン・イノベーションを推進する上でも非常に重要だと思います。日本の大企業でも、近年になってようやくベンチャーと組んでやっていきましょうという動きが出てきていますよね。トヨタ自動車やファナックのような世界的な大企業が、創業4年目の人工知能(AI)ベンチャーのプリファード・ネットワークスのような会社と提携して協業しているのはその好例で、事業規模では圧倒的な差がありますが、関係的にはまったくのフラットです。

 大企業がベンチャーと組む場合、うちは大企業だからという上から目線の権威主義的な議論の進め方では決して上手くいきません。それぞれの強みを活かしてイノベーションを起こしていくには、やはりフラットな関係性をベースにしてお互いにアイデアを出し合っていく必要があります。ファシリテーションは、フラットな関係性の中でリーダーシップを発揮するのに非常に役に立つはずです。