ファシリテーションの導入を阻む「組織の壁」とは?黒田由貴子(くろだ・ゆきこ)ピープルフォーカス・コンサルティング(PFC)取締役・ファウンダー。1994年から2012年まで代表取締役。組織開発やリーダーシップ開発に関する企業内研修やコンサルティングを展開。経営層向けにエグゼクティブコーチングも数多く手がける。PFC創業前は米国系大手経営コンサルティング会社でシニア・コンサルタントを務め、ソニーでは海外マーケティング業務に従事。在職中、フルブライト奨学生として米国ハーバードビジネススクール経営学修士号(MBA)を取得。監訳書に『リーダーシップ論』(ジョン・コッター著)ほか。

黒田 オープンマインドでいるためには、相手をリスペクトする気持ちや、相手への興味・関心が持てるかがカギになるのではないでしょうか?

 研修でよく質問されるのが、「ファシリテーションをしていて自分の意見を言いたくなったり、相手の考えを否定したくなったら、どうすればいいか?」ということです。特に相手が自分の考えとまったく違うことを発言したとき、「黙って聞いているだけではなく、正すべきではないか?」とおっしゃる方もいます。

 メンバーの誰かが異なる意見を言ったとき、リーダーが「それは違う」と頭ごなしに否定してしまったら、その人はもう二度と意見を言わなくなってしまう可能性がありますよね。

黒田 そうなんです。だから私は、次のようにアドバイスしています。ものの見方や考え方が異なっているのは当たり前で、その違いに対して「自分の考えはこうだ」と主張するのではなく、「なぜ相手はそう考えるのだろう?」「なぜ自分と違うのだろう?」と相手に興味をもって掘り下げていくことが大事なんだ、と。そうすれば、自ずとオープンなマインドが身につくのではないかと思います。

 オープンマインドということについて、ひとつ印象に残っている出来事があります。組織開発に関する国際会議に出席したとき、その道の世界的な第一人者であるピーター・センゲさんとお会いしたんです。センゲさんは参加者からいろいろな意見を聞き、一生懸命にメモをとっていらっしゃいました。私が聞くかぎり、その中には的外れな意見もかなり混じっていました。でも、センゲさんはすべての意見に対して変わらぬ興味や関心をもって耳を傾けていたんです。その徹底した姿勢に接して、真のファシリテーターとは彼のようなマインドを持っている人なんだろうなと感動しました。

ファシリテーションの導入を阻む
組織の権威的な構造

黒田 ファシリテーションのスキルは、学ぶことももちろん大変ですが、学んだことを自分の組織に持ち帰って実践していく際にもさまざまなハードルがありますよね。

 私が留学していたハーバードビジネススクールのある教授は、よく「ファシリテーションはとてもハードだ」とおっしゃっていました。彼は前職のスタンフォード大学ではレクチャー型の授業をしていたそうです。ところが、ハーバード大学でケースディスカッション型の授業のファシリテーションをすることになり、「ファシリテーションの授業の準備は、自分でしゃべる授業のときと比べて3倍以上の時間がかかる」と言い、冗談半分に「スタンフォードに帰りたいよ」と愚痴をこぼしていました(笑)。

 ビジネススクールの教授でさえそうなんだから、普通のビジネスパーソンが自分の会社でファシリテーションを行うのは最初はかなりしんどいでしょうね。ファシリテーションって、とにかく場数を踏まないと上達しないですから。会議の参加者に好き勝手に意見を言わせるだけで終わっていては、ファシリテーションとは言えないですし。

黒田 学んだことを自分の組織で実践しようとするとき、慣れないうちはすごく苦労するだろうし、思い通りにならないことや失敗も幾度となくあると思います。ファシリテーター型リーダーをめざす人には、そうした壁を乗り越える覚悟もぜひ持ってほしいですね。