黒田 「そのときは私が怒られますから」と言って、押し切りました。面白かったのは、その会議室に入ってくるなり社長はテーブルのお菓子を見て、「なんでこんなものが!」と怒るどころか、「おっ、今日はお菓子があるんだ」と喜んで、食べだしたんです(笑)。

 トップ自身はそれほど権威的ではないのに、下の人たちが上を意識しすぎて、結果としてその組織に権威的な雰囲気が醸成されてしまうこともありますよね。

 それぞれの業態ごとにある日常的な業務が、ファシリテーションを浸透させる際の障害となるケースも実は多かったりします。

 たとえば、小売業界のコンサルティングをやったとき、意外に難しいなと痛感させられたのは「全員を集めること」なんです。

黒田 森さんの『ストーリーでわかるファシリテーター入門』も、小売業を舞台にしていましたね。

 ええ。この本の物語はもちろんフィクションですが、そのベースには私の実体験があります。小売店って365日営業しているところが多くて、従業員はシフト制で動いています。全員を集めてミーティングをするには、1日もしくは半日店を閉めて、さらに当日オフのスタッフにはわざわざ店に来てもらう必要があります。店を閉めれば、その分売り上げが減ってしまいます。シフト外で参加してくれたスタッフに対して、人件費をどうするかという問題もあります。さらにその店がショッピングモールに入っていたりすれば、モールの運営会社に了解を取らなければなりません。

 現場の人たちからすれば、こうした細かな障壁を克服するのは、日常の業務から逸脱するし、売り上げも下がるしで、実はハードルが高かったりするんですよね。

危機意識があってこそ
ファシリテーションは組織変革に結びつく

 そうした障壁を乗り越えて、組織にファシリテーションを浸透させるには、やはり危機感が不可欠だと私は思います。「今のままでは自分の会社やチームは生き残れない」という危機感を腹の底から感じられれば、変化のための行動も厭わずにやると思うんです。

黒田 古い話ですが、日産自動車が経営危機に陥ったとき、ファシリテーション導入のお手伝いをさせていただいたんです。そのときも社内、特にトップに強い危機意識がありましたね。

 ファシリテーターの導入は、トップに就いたカルロス・ゴーン氏が主導したと聞いています。彼が「クロスファンクショナルなチームで改革案や改善案を作り上げていく会議には、ファシリテーターが必要だ」と言って、改革の初年度に2000人ものファシリテーターを育成したそうですね。

黒田 そうです。会議ひとつとってもそれこそ何十年と同じスタイルでやってきたわけで、それを変えるには相当のエネルギーが必要になりますし、それを全社的に変えていくとなると、強い危機意識とある程度の強制力が必要だと思います。特に強制力はトップしか発動できないので、トップの方にあえて「会議にはファシリテーターをおくこと」などと宣言してもらうことは最初の段階ではかなり重要です。

 以前のインタビューで、私がGEにいたときにファシリテーションと出合ったお話をさせていただきましたが、GEで「チェンジ・アクセラレーション・プログラム(CAP)」というワークショップを実施することになったのも、きっかけは「合弁事業を立て直さなければ!」という強い危機感でした。

 ファシリテーションのテクニックや方法論は、組織を変えていくために極めて有効です。でも、その方法論を組織に導入するだけでは変革には結びつかない。英語では「sense of urgency」という言い方をしますが、そうした危機意識があってこそ、ファシリテーションは本当の意味で活かされて組織変革につながっていくんだと思います。

黒田 それぞれが持つ危機感を皆で共有し、一丸となって変革や前進するための前向きなエネルギーに変えていくのが、ファシリテーター型リーダーの役割と言えますね。

(写真撮影:宇佐見利明)

※次回は5月12日(土)に配信致します。