幕引きの際に必要な
5つのステップとは

 そして、イチローとの交渉のプロセスも素晴らしかった。契約社会においては、契約書であらかじめ契約解除の内容が盛り込まれていたら、それを拒否できないものだが、人の感情はそう単純にはいかない。誰しも、突然の解雇や引退通告には戸惑ったり拒否反応を起こしたりする。マリナーズは、3月の段階で契約し、4月には実績の評価を共有し、5月に今回の処遇を打ち出した。

 こうした段階的なプロセスを経ることで、どうすればイチローを満足させられるかを見極めることができたのだろうし、イチロー本人にとっても「唐突な通告」にならずに済んだ。

 段階的なプロセスは、相互の直接的なコミュニケーションがあって初めて成立する。3月初旬から、マリナーズはイチローや彼の代理人と何度かコミュニケーションをしてきたというが、これが功を奏した。

 マリナーズが行った手順をまとめると次のようになる。(1)法律や契約にのっとって、(2)本人とのコミュニケーションをとり、(3)段階的なプロセスを踏んで、(4)本人のモチベーションファクターに沿った、本人を満足させる解決策を見いだし、(5)未来に目を向ける方向性を打ち出す――以上の5つのステップにより、イチローの選手としての幕引きを成功させたモデル事例である。

 一方、日本サッカー協会によるハリル氏電撃解任は、(1)は満たしていたかもしれないが、(2)~(5)ができていなかったトンデモ事例だ。

 実は、この5つのステップは、組織内のメンバーを退任させなければならない時のグローバルスタンダードのステップだ。

 例えば、パフォーマンスが上がらない社員に対して、さまざまな手を尽くしたが退社を促す以外に方法がないという場合、(1)その国の法律や本人との雇用契約にのっとって、(2)半年程度前から本人とコミュニケーションを開始し、(3)3ヵ月程度前から「実績が上がらない場合は異動させる」「異動できない場合は、別の対処をする」などの段階的なプロセスを踏み、(4)例えば、地位や給料は下がっても本人のモチベーションファクターに沿った職務を付与するなど、本人を納得させる解決策を検討し、(5)転職支援をしたり、新たなポジションや制度をつくるなどして、未来に目を向ける方向性を打ち出す――という5つのステップそのものである。

 パフォーマンスが上がらなくなって本人が引き際を考えなければならなくなったり、組織として幕引きを考えなければならない場面というのは、そう毎日起こることではない。そのため、こうした状況に直面した際に行き当たりばったりの対応を取ったり、法律や契約の順守だけを念頭において、ほかのすべきアクションを怠ったりしがちだ。引き際や幕引きを考えなければならなくなった時は、この5つのステップを踏むことを、心掛けておくべきだ。