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東日本大震災の被災地における復興需要で大忙しのゼネコン業界にもう一つ、新たに耐震工事バブルがやって来そうだ。
3月には、東日本旅客鉄道(JR東日本)が総額1000億円を投じて、地震計の増設と耐震工事を行うことを決めた。
1995年の阪神・淡路大震災以降、鉄道業界では耐震工事に力を入れてきた。そのかいあって東日本大震災では、揺れによる被害は大きくなく、津波被害に遭った地域以外は早期に復旧できた。
しかし、東日本大震災でプレートの状態が不安定となったため、次なる大地震の危険性が指摘されている。
特に、首都直下型地震は「4年以内に70%の確率で起こる」との衝撃的な予想も発表された。こうした状況を踏まえ「従来計画にない部分も補強の対象とした」(JR東日本)。
また、東京メトロも高架橋柱の耐震工事や津波による浸水を防ぐための、出入り口をふさぐ装置などの設置に100億円を投じることを決定。今後、他の私鉄や道路会社など、インフラ関連企業を中心に耐震工事ブームが起こることが予想される。
特に注目されるのは首都高速道路だ。東京オリンピックに合わせて開通した首都高は老朽化が進んでおり、大規模工事が予想される。「数千億円規模になるのではないか」ともウワサされており、ゼネコン業界は虎視眈々と行方をウォッチしている。
一方、オフィスビルや工場、分譲マンションなどでも耐震工事への関心が高まりつつある。
3月末の5日間、大成建設が開催した、震災対応技術などを紹介するイベントには、延べ1500人が訪れ、耐震技術や液状化の原理などの説明を熱心に聞く姿が見られた。
あるゼネコン幹部は「確かに見積もりや耐震診断の依頼が激増している」と話す。もはや企業にとって、耐震工事は「当然の備え」となりつつあるのだ。
しかし、こうした耐震工事は規模が小さいため、ゼネコンには人気がない。
過去10年以上にわたり、公共工事の半減に苦しめられ続けたため、ゼネコン業界は大リストラを進めてきた。そこへ東北地方の復興需要が降って湧いたため、本社社員も、現場の職人も足りない状況が続いている。
小さな工事まで請け負っているヒマはなく、大手や中堅ゼネコンから、より規模の小さい建設業者への「たらい回し」も起きている。どうせやるなら、大規模工事というわけだ。
需要急増によって人手と資材が不足し、コストが急上昇しているため、ぬれ手で粟でもうけられる状況にはないが、それでも日照り続きだった業界はしばらく活気づきそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)